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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

渋谷・道玄坂で工事中に土砂崩れ

      2015/06/12

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道路は人や車が走りやすいように、アスファルトで舗装されています。
そしてこの舗装の下には、様々な導線が走っています。
水道、下水、ガス、電話線、光ファイバーなど。
舗装の上では人や物の移動を支え、舗装の下では社会全体を支えるインフラの血脈があるといっても過言ではありません。

道路工事は、端から見ていると、道を塞ぎ、邪魔に感じるかもしれません。
都会では、いつも道路工事していると感じることも少なくないようです。

とはいえ、道路での工事は、舗装の修復のみならず、水道管工事、ガス管の工事など、様々な用途が入り乱れているものの、必要があるから行っているものです。

しかし、一方では道路工事は、影響があるのも確かです。
人や車の通行量が多い道路では、道路規制により、渋滞の原因になりますし、場合によっては迂回しなければならないこともあります。

東京や横浜、大阪、名古屋など大都市の街中での道路工事は、なるべく影響を最小限するための方法が工夫されているのです。
関係者以外は、気づきにくいことですが、周辺環境への影響を最小にするよう、行政からも指示があるので、工事業者は必至に対策を検討しているのです。

先日、東京渋谷の繁華街近くで、道路工事の最中に土砂崩壊の事故がありました。
作業員の方が1人亡くなるという、大きな事故になりました。
都心での土砂災害。特有の事情もあります。
この事故を事例として取り上げ、その原因と対策を推測し、検討してみたいと思います。

渋谷・道玄坂で工事中に土砂崩れ 生き埋めの作業員1人死亡
(平成26年11月24日)

11月24日午前11時50分ごろ、東京都渋谷区道玄坂で、工事現場関係者から「土砂が崩れ、作業員1人が逃げ遅れた」などと119番がありました。
警視庁渋谷署によると、作業をしていた会社員が土砂に埋まり、救出されたが、搬送先の病院で死亡が確認されました。

渋谷署などによると、現場ではビルの漏水確認のための道路の掘削作業が行われていました。
穴の壁面が崩れたとみられる。同署が詳しい事故原因を調べています。

時事通信
この事故の型は「崩壊」で、起因物は「地山(土壁)」です。

一部報道では、防水工事というのもありましたが、いくつかの記事を見てみると、どうやら漏水調査を行っていたようです。

道路を掘削して、ビルの地下部からの漏水を調査していた最中の事故のようです。
他の記事ではありますが、掘削していた深さは約3メートルということですので、かなりの深さまでほっていたことが分かります。

事故の現場は、渋谷の繁華街の近くであり、絶え間なく人が行き交う場所であったと思われます。
現場写真を見たところ、道幅もそれほど広くなく、車がすれ違うのは難しく、一方通行となっているようです。

このような都会の道で、掘削作業を行う場合は、制限があります。
それは、掘削する箇所を最小限にして、影響をなるべく小さくするということです。
道路を掘るので、車は迂回させる必要があるかもしれませんが、歩行者は仮設の歩道を設け、安全に通行できるような措置をとります。
完全に通行止めというのは、許可も出にくいものなのです。

通常、地面を掘る時は、垂直に掘ることはしません。
切り立つ土壁は、崩れやすく、穴の底で仕事をするには危険だからです。

掘削する場合は、土壁に適度な勾配をつけます。
理想の形は、地面が広く、底が狭い台形の形です。
この形だと、土壁が崩れて、落下してくる危険が小さくなります。
ボロボロと崩れやすい土質の場合であれば、勾配をつけて掘削しなければなりません。

しかし台形の形にするためには、地上面では横広に掘らなくてはなりませんね。
穴の底を1メートルの幅で掘ろうとしたら、地面は1.5メートル、あるいはそれ以上の幅で掘るなどになります。
周りに全く影響のない場所であれば、この掘り方でも問題ないでしょう。

しかし、通行量が多い道路で、このような幅で掘れるかというと、不可能です。
道路を全面的に掘らなければなりませんし、ショベルカーなどを使用するならば、作業スペースがなくなります。
勾配を付けた掘削は、都会では現実的ではないのです。

とはいえ、掘削作業は必要です。
では、どうするか?

必要最小限の幅で掘削しても、土壁が崩壊しない方法をとらなければなりませんね。
その方法が、土止め支保工です。

土止め支保工とは、土壁の前に金属や木の壁を設け、穴の内部に土が落ちてこないようにするものです。
土壁を内部から支え、穴を保持するためのものです。

浅くしか掘らない場合は不要ですが、目安として通常2メートル以上深く掘る場合は、土止め支保工が必要になります。
ただし、今回の事故現場のように、街中では、1.5メートル以上の深さまで掘る時には、土止め支保工が必要です。

土止め支保工のメリットは、土が崩落しないようにするのはありますが、掘削幅を省スペース化することも可能です。
穴底の幅を1メートル必要な場合は、地上部も1メートル幅だけ掘ればよいことになるのです。

都心部での掘削作業では、土止め支保工は必須でしょう。

少々、長く横道にそれましたが、今回の事故では、土止め支保工は設置されていなかったようです。
3メートルもの深さまで掘削していたのですから、当然土止め支保工が必要でした。

いかなる事情かは、推測の域を出ませんが、調査は短時間で終わるから、不要と判断したのかもしれません。

しかしながら、土砂の崩壊は起こり、作業員が1人埋もれてしまいました。

さて、以上のことを踏まえて、原因を推測してみたいと思います。

1.3メートルの深さまで掘削しているにもかかわらず、土止め支保工を行っていなかった。
2.作業計画、作業手順が作成、または作業員に徹底されていなかった。
3.作業前に、土壁の緩みなどの確認を行っていなかった。
4.地山の掘削及び土止め支保工の作業主任者が不在だった。


土止め支保工を設置する作業計画があったかどうかはわかりません。
施工計画を作成していたならば、触れていた可能性があります。
しかしながら、事故という結果に至ったのは、そのことが作業員に通知されていなかったのではないかと思われます。

少し掘って、調査するだけの作業のために、土止め支保工を設置するのは、手間もかかりますし、コストもかかります。
少しくらいの時間であっても、事故は起こります。
人の事情など考慮してくれないのが現実なのです。

数日間掘ったままの状態であれば、作業前には亀裂や浮石など、崩壊する危険性がないかを点検しなければなりません。
当日掘ったばかりの穴であれば、点検は求められていませんが、穴の底で作業する前には、土壁で緩んでいるところはないか、亀裂はないかなどくらいは確認したほうが、安全に作業できますね。

これらのことを踏まえ、対策を検討してみます。

1.1.5メートル以上の深さまで掘削する場合は、土止め支保工を行う。
2.土砂崩れを防止する作業計画を作成し、作業員に通知する。
3.作業前には、土壁の状態を確認する。
4.2メートル以上の掘削作業、土止め支保工を行う場合は、作業主任者を配置する。


腰の高さまで埋まってしまうと、人が亡くなる確立は高くなります。
腰の高さはせいぜい1メートル程度なのですから、これより深い1.5メートル以上掘る場合は、土止め支保工は設置するものだと考えるのが、良さそうです。

そして、土止め支保工があるからといって安心し切るのではなく、事前に土壁の状態を確認すると、さらに身を安全に繋がります。

確かに土止め支保工を行うのは、手間もかかりますし、コストもかかります。
ほんの数時間程度の作業のために、わざわざ設置したくないというのは、作業を行っていたら自然に起こる気持ちでしょう。

しかしながら、短時間の作業であっても、この事例のような事故が起こってしまいます。

山間部などではなく、都会の真中でも、土砂崩れによる事故は起こり得るのです。

建設業にとって、掘削作業は切っても切り離せないものです。
掘削作業があるかぎり、土砂崩壊の事故の危険はつきまといます。
土止め支保工は、その事故を防ぐ有効な手段です。

今回の事故は、都会であろうと、山間部であろうと、どこでも起こり得る事故です。
今一度、土砂崩壊から作業員を守る方法として、何ができるかを検討してみてはいかがでしょうか。

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