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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

不整地運搬車の事故事例

      2015/05/30

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荷役運搬機械は作業において、不可欠なものですが、事故も少なくありません。

建設現場での荷役作業として、材料や土砂、岩、木材を運ぶ必要があります。
山間部や河川敷など、タイヤで駆動するトラックなどが走行するのは困難な現場では、不整地運搬車が、荷の運搬を行います。

不整地運搬車は、建設作業では重要な役割を担うのですが、同時に不整地運搬車による事故も少なくありません。

足回りがクローラー(タイヤの場合もあります)なので、デコボコの悪路や少々の斜面でも走ることができます。
だからといって、路肩などを走っていると転落する恐れがあります。

また土を運ぶ作業時には、周囲には作業員がいます。
近くで作業しているような現場内では、接触事故を起こしてしまうこともあります。

ショベルカーなどの建設機械に注意するのはもちろんですが、同時に作業場を行き交う不整地運搬車にも注意して、作業する必要があります。
また不整地運搬車の運転者は、周囲の状況、地形や作業員の配置を確認して、運転する必要があります。

今回は、不整地運搬車の事故事例を見てみたいと思います。

参考にしたのは、厚生労働省の労働事故事例です。
労働事故事例

橋脚床工事で掘削された土石を不整地運搬車で運搬中路肩が崩れ転落

この災害は、土石を積載した不整地運搬車が路肩から転落したものです。

この工事は、橋脚建設に伴う床掘り作業で、現場指揮者、掘削を行うドラグ・ショベルの運転者、土石の積込みを行うドラグ・ショベルの運転者および積込まれた土石を仮置場まで不整地運搬車で搬送を行う運転者の4名編成によって行われていました。

不整地運搬車の搬路は片道約100m、幅は約3.5mと狭く、土石仮置場に向って最初の約30mの間は勾配が20度の急な登り坂となっているが、当日は正午頃かなり強い雨が降ったため、ぬかるんでいて滑りやすい状態でした。

午後4時30分頃、不整地運搬車は走行時のスリップを防ぐために、土石を積載して登り坂を後進で運搬していたが、急速に前進し始め、積み込み位置まで下ったところで路肩が崩れ、不整地運搬車は7m下の川に転落し、運転者が死亡しました。

なお、特定自主検査および月次検査の記録表からは異常が見受けられませんでした。
運転者は有資格者でした。


この事故の型は「転落」で、起因物は「不整地運搬車」です。

雨が降り、ぬかるんでいた坂を走っている最中に、路肩が崩れて、転落した事故でした。

不整地運搬車は、路上を走ることはありません。
現場内の狭い範囲内で、土や石などを運びます。

この現場では、掘削した土石を運んでいましたが、走行路が非常に狭く、一部勾配がありました。

道幅の狭い道路を走る時は、緊張すると思います。
車がギリギリすれ違えるかどうかという道幅で、路肩には側溝がある。
自動車で走るのも気を遣う道ではないでしょうか。

この事故現場で、不整地運搬車が運転していたところも同じような道幅で、さらに地面はぬかるみ、クローラでもスリップする恐れがありました。

転落するおそれのある場所を建設機械や不整地運搬車などが通る場合は、転落防止の措置をとらなければなりません。

運転者も斜面ではスリップするかもという認識があったようでした。
しかし、路肩を示すコーンなど、これ以上近づくと転落するかもしれないから危険ということを明示したり、誘導者を配置はありませんでした。
道路のすぐ側は7メートルもの崖です。転落防止の措置は必要だったのではないでしょうか。

雨の強さや地面の状態にもよるでしょうが、不整地運搬車でも走りづらそうであれば、作業を中止するのも、現場監督の判断の1つだったかもしれません。

特にスリップ防止で、バックで斜面を登っていました。
バック運転では、死角も多くなり、路面などしっかり確認しながら、走ることも困難だったと思われます。

また直接、整備不良が原因というわけではないでしょうが、2年ごとの特定自主検査や月次点検、作業前の点検は必ず行い、記録に残さなければなりません。

さて、これらを踏まえて、事故の原因を検討してみます。

1.不整地運搬車の走行路に転落防止措置が施されていなかったこと
2.誘導員を配置して、誘導させていなかったこと。
3.降雨後で、土がぬかるみ滑りやすく、路肩も崩れやすい状態だったこと。
4.安全管理体制が不十分だった。


作業前の調査や施工計画を作成する段階で、転落する危険は見つけられたと思います。

不整地運搬車が走行するルートに選択肢があれば、多少遠回りでも、別ルートを使えたかもしれません。
別ルートがなくとも、崖に接した道を走るのですから、路肩を示すためにカラーコーンを配置したりすると、運転者も道の境界を判断しやすかったのではないでしょうか。

それらの設備を設けるのが困難な場合で、転落のおそれがある場所を機械が通る時は、誘導者を配置します。
特にバックで走っているなら、誘導は必要でした。

それでは、この事故の対策を検討してみます。

1.道幅が狭い、路肩がある走行路では、、転落防止設備を設ける。
2.誘導員を配置すること
3.降雨後のスリップする危険な状態での運搬作業は行わない。
4.現場の状況を判断して、作業を指揮する責任者を配置する。


路肩が崩れたり、転落するおそれのある場所では、転落防止措置が大切です。

大規模なものでは、とても不整地運搬車でも走れないような道幅しかないならば、盛土して道幅を広げる仮設計画を検討する必要も出てくるでしょう。

そこまで大規模でなくとも、せめて路肩を示す設備くらいは、必須です。

誘導員に当てられる程、人手が足りないこともあるかもしれませんが、危なそうだと思ったら、誰かを臨時に誘導員にするのも大切です。

現場監督や職長などの責任者は、作業場全体を見て、必要な場所に人を配置することが求められるのです。

作業は個々人が与えられた役割を全うしようとします。
そのために、時には危険と思われる行為も行う人もいるでしょう。
そういったことをコントロールするのは、現場責任者の役目になります。

自分の作業しつつも、自分だけの作業に集中しすぎてはいけないと、難しいことを要求されますが、全ての作業者の安全のためにも、広い目が必要なのです。



さて、もう1件、不整地運搬車の事故事例を見てみます。

こちらも、参考にしたのは、厚生労働省の労働事故事例です。
労働事故事例

測量作業中、後退してきた不整地運搬車にひかれて死亡

この災害は、ほ場整備工事において、測量作業を行っているときに発生したものです。

災害発生当日、現場には元請及び下請の作業者が集まりました。
元請の現場責任者から作業内容について口頭で指示があった後、それぞれ担当に分かれ、測量、石拾い、基盤ならし、土砂の移動等の作業を開始しました。

作業を開始した直後、現場責任者は測量作業に必要な資材が不足していることに気づき、これを補充するため現場を離れました。
そのとき、別の作業者に土砂の移動作業の準備を行うよう指示しました。

指示を受けた作業者は、当日は雨が降っていたので土砂の運搬はダンプトラックではなく不整地運搬車を使用した方が効率的に行えると考え、前日の作業で使用した不整地運搬車を隣の工区から後退で運転して現場工区まで進入させた。
このとき、石拾いをしていた作業者が大きな声をあげ、運転していた作業者も不整地運搬車が何かに乗り上げたように感じたので、不整地運搬車を停止しました。

状況を確認したところ、人が不整地運搬車にひかれていた。被災者は直ちに救出され、病院に搬送されたが、死亡しました。

この工事現場では、不整地運搬車を方向転換するスペースがあったにもかかわらず、方向転換することをめんどうに思い後退で運転しました。

また、不整地運搬車の運転業務の資格を持っておらず、不整地運搬車の鍵は現場事務所の壁にかけられており、誰でも自由に取ることができる状態でした。

この現場では、元請及び下請の作業者に対する安全衛生教育が十分には実施されておらず、工事の作業手順や作業方法を盛り込んだ作業計画書の内容は作業者に周知せず工事に着手していました。

そのため、作業に必要な指示は、すべて現場責任者が現場で口頭で行っていました。


この事故の型は「はさまれ・巻き込まれ」で、起因物は「不整地運搬車」です。
型としては「激突され」でもよさそうですが、引用先の労働災害事例では、ひかれたという状況から「はさまれ」となっていました。

この事故の原因は、不整地運搬車を運転した作業者が、後方の確認もせず、作業場に入ってきたことです。
運転者は、無資格でしたが、独自に判断して運転したということなので、今回が初めて乗ったということはなさそうです。日常的に運転していたと思われます。
また鍵も管理されておらず、誰でも使えるようになっていました。

作業内容も当日の朝に口頭で伝えられていたことや、資格や機械の鍵など、十分な安全管理ができていなかったことが、事故の背景にあったようです。

運転者は、方向転換が面倒だと思い、バックしてきたのですが、より安全な方法を選択せず、少々の手間を惜しむ心理が働いたのは、個人の安全意識もありますが、常日頃の作業場の雰囲気がそうさせた可能性があります。

この事故を起こした運転者以外でも、事故を起こす要素はあったのかもしれません。

これらを踏まえて、原因を検討してみます。

1.無資格者でも運転できる状況にあったこと。
2.運転者が、後方確認を行わないまま、バックで作業場に進入したこと。
3.作業計画や作業手順が周知されておらず、安全管理が十分に行われていなかったこと。


不安全な状態が黙認されていたこと、安全に対する意識が不十分であったことが、この事故を招いてしまったと言ってよいでしょう。

とはいえ、このような作業現場は決して少なくないでしょう。

事故が発生した時には、クローズアップされます。
しかし、特に中小零細の企業が行っている現場では、暗黙されています。
資格を持っていない人に、現場で「ちょっとやってみろ」と、やらせることもあります。

背景の1つは、人手不足とコストがあります。
資格を取得するための、特別教育や技能講習は、数万円の費用がかかります。
それを全ての作業員に受けさせるのは、少人数の会社であれば、相当に負担になります。

また、現場ごとに臨時で手伝いに来てもらう場合もあります。
こういった人たちの、所有資格まで、管理が行き届かないこともあります。

有資格者に作業させる。
無資格者でも使えるような状況を避けるために、鍵の管理をしっかりする。

起こってしまった事故には、原因があるのですから、十分な対処を行わなければなりません。

それでは、対策について検討してみます。

1.無資格での運転を防止するとともに、鍵の管理を行う。
2.不整地運搬車の運転にあたっては、作業方法、作業指揮者の指名などの安全対策を行う。
3.作業計画、作業手順、安全対策、立入禁止箇所などを作業者に周知し、安全な作業を指示する。


1人の作業者が、幅広い仕事ができるようになると、作業効率は上がります。
私はこれができません、あれができません等と言われたら、与えられる仕事が限られてきますからね。

しかし、それには資格の有無などの条件を必ず満たす必要があるのです。

1人の作業範囲を増やすのであれば、事業者としては、特別教育などを受講させた上でなければなりません。
人にかかる投資は安くありませんし、せっかく投資したのに辞められたらというリスクも考えるでしょう。

とはいうものの、事故が起こってしまったら、惜しんだ投資費用どころではない負担になります。
全くもって割に合わないでしょう。

事業者だけでなく、現場作業者も、少々の手間を惜しむことが、取り返しの付かないことになりうることを覚えておく必要があります。

あの時こうしていたら、という後悔は、取り返しがつきません。
事故事例で紹介しているものは、安全でない判断の結果、後悔するものばかりです。

ほんの少々の意識の変化で、結果は変わります。

意識を変えるのは、すぐにできます。
難しいのは、変え続けること。変えた状態を維持することです。
これには、継続的な教育や啓発しかありません。

事業者は、今日も安全に仕事して帰ってくるよう、常に口を酸っぱくして言いましょう。
これが事故防止のために、毎日できることの1つです。

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