猫井川、思い出のファースト雷
2015/05/30
こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。
「まあ、犬尾沢のことは、また聞けばいいんじゃないか。 色々とあるし、中には参考になることもあるだろう。」 エスパニョール鼠川は、猫井川の向かいの席に座り、グラスを空けながら言いました。 「はあ、参考にですか。 でも犬尾沢さんて、あまり昔のこととか話さないですよね。 この前、羊井さんから、ちょっと聞いたくらいで。」 「まあな、あいつはあまり話さないからな。 その辺りは、ワシからも後輩指導をするように言っておいてやる。」 グラスを傾け、飲み干すと、奥さんにキープしている焼酎を持ってきてもらうように言いました。 「ここは、スペイン料理やだから、ワインとかの方がいいんだろうけど、わしは焼酎がいい。 お前も飲むか?」 猫井川がエスパニョールを自称しているのに焼酎なのかと思いつつ、頷くと、鼠川は2人分の水割りを作りました。 グラスの1つを猫井川に渡しながら、今度は猫井川に話を振ってきます。 「そんなことより、お前の話をしろ! お前は前はバイトとかしてたと言ってたな。 どんなことしてた? それで、何でこの会社に入ったんだ?」 グラスに口をつけていたところ、急に話を振られたので、少しむせてしまいます。 「前のバイトですか? うーん、学校卒業してから色々やりましたよ。 居酒屋とかパチンコ屋とか、あとガードマンもやりました。」 「ほう、ガードマンか。 道路工事か?」 「そうです。ちょっとの間でしたけどね。 あれって、すぐにやれるかと思ったら、講習とか受けなきゃならなくて。 で、やったのはいいんですけど、冬だったから、心底冷えました。」 「そうだろう。 わしらは寒空でも、体を動かすからな。 ガードマンは、動きまわるわけにもいかないから、体が冷えるよな。」 「それが辛くて、すぐ辞めちゃいました。」 「そうか、こらえ性がないな。」 「まあ。。。 ガードマンしている時に、道路工事とか見てましたよ。 何やってるかは分からりませんでしたけど、いっぱい機械があるなと思いました。 そんなこんなしている時に、そろそろきちんと就職しないとと思いまして。」 「この会社に来たということは、お前の親父さんは、建設とかか?」 「いや、全然。普通のサラリーマンでしたよ。 まあ、母親と離婚して、今はよくわかんないですけど。 だから父親の影響でとかではないです。」 「そうなのか。 で、何でこの会社に?」 「当時、俺はものすごく太ってたんですけど、痩せるかなと思って。 あと、ガードマンやってた時に、でかい機械を動かすのが面白そうだし、俺でもできるかも思ったんですよ。」 「そんなに太ってたのか? 今は普通くらいだから、想像つかないな。」 「結構なものでしたよ。 面接の時に、太ってても平気ですか?痩せれますか?と聞きましたもん。」 「そうしたら、何て言われた?」 「大丈夫、半年もしたら標準になると言われました。 半年とは言わないですが、1年くらいで、服のサイズがLLからMになりましたけどね。 ちょっとずつ筋肉もついてきましたし。」 「ほほう。そりゃ目的はかなったな。 体が資本だから、痩せるし、筋肉はつくわなー。 でも、最初はきつかったろう?」 「めちゃくちゃキツかったです。 初日に辞めてやろうと思いました。」 「ははは。そりゃそうだ。 太ってなくても、最初はきつい。 でも慣れてくるんだけどな。」 「最初はしんどすぎて飯も食えなかったですもん。 それで、痩せたというのもあるんですけど。 確かに慣れてきますね。」 「若いもんは、我慢を知らんのがいかん。」 「まあ、それは年関係ないですって。 俺の後にも、30とか40超えた人も入ってきましたが、すぐ辞めましたもん。 もうちょっと続けていたらなーと、持ったないないなと思うんですけどね。」 「そうだな。 1年位続けていると、仕事が分かってくるのにな。 なんで、お前は辞めなかったんだ?」 「最初はちくしょーという気持ちですね。 でも橋の現場に行ったんですけど、自分が関わった物ができて、使われているのを見て、やりがいを感じました。 仕事の時は、めちゃくちゃ怒られるし、しんどいんですけどね。 できたものを見ると、嬉しくなりますね。 これは俺が作ったんだーと思います。」 「それが多いんだよ。この仕事は、目に見えるものができるからな。 お前はいいところに気づいている。 ところで、お前が最初に怒られたことは覚えているか?」 「何となくですけど、覚えています。 犬尾沢に怒られました。」 「どんなことだ?」 「あれですね・・・・」 猫井川が、HHCに入って間もない頃、橋脚工事に入っていました。 「おーい、猫井川。そこのバタ角持ってきてくれ。」 犬尾沢が猫井川に呼びかけます。 「バタ角?バタ角って何ですか?」 「その四角い角材のことだよ。それを5本ほど持ってきてくれ。」 「はーい。」 大きなお腹の猫井川は、バタ角の前で屈み込み、1本ずつ腕に抱えていきます。 両手で、5本抱えて、よろよろと歩いて行きました。 「持ってきましたー」 フゥフゥ言いながら、バタ角を運びます。 「おう、そこに置いてくれ。お前すごい汗だな。」 息を吐きながら、バタ角をドサッと置きます。 「おい!落とすな。静かに置け!」 犬尾沢に怒られます。 「は、はい。」 返事をしながら、汗をかいたので、ヘルメットをずらし、汗を拭います。 「それと、汗を拭くのはいいが、ヘルメットのちゃんと調整しておけよ。 あご紐もきちんと締めろ。 ぶかぶかだと、役に立たないぞ。」 「はいー。」 ヘルメットなんて頭に被ってりゃ、別にいいじゃないかと内心うそぶき、ヘルメットの調整も特にやらないままでした。 「猫井川、こんどはそこにある短い塩ビ管を足場の上に持って行ってくれ。 足場だから落ちないように、気をつけろよ。」 そう指示された、猫井川は「分かりました。」と返事をして、塩ビ管3本を抱えていきました。 「ふぅ、休む暇ないな」 と独り言を言いながら、また額から流れる汗をそのままに歩いていきました。 足場の前に立つと、汗が目に入りヒリヒリします。 階段を登りながら、塩ビ管を抱えたままの腕を顔に持って行き、何とか汗を拭こうとします。 2度、3度汗を拭います。 その時です。 拭った手に当たり、ヘルメットがするりと後ろにずれてしまったのです。 ずれてしまったヘルメットのあご紐は、猫井川の首にかかり、締めてしまいます。 「ぐへぇ」 妙な声を出しながら、猫井川は後ろにそり返ります。 階段を、後ろに倒れそうになった時でした。 ガシッと背中を支えられる間隔。 間一髪で、倒れるのを免れました。 「す、すみません。ありがとうございます。」 そう言って振り返った猫井川の目に映ったのは、顔を真赤にした犬尾沢でした。 「猫井川!ヘルメットの調整はさっき言ったところだろうが!」 ひぃぃぃ!と唸る猫井川の汗は、通常より多く出てしまい、作業服の上半分は変色してしまうのでした。 「・・・確か、こんな感じでした。」 猫井川は、語り終えました。 「ははは、最初から雷を落とされたか。」 「今では、多少は怒られた理由は分かりますけどね。」 「そんなもんだ。少しずつ覚えていくもんだ。」 そういう2人の話は、まだ続きそうです。 |
前回からの引き続きで、鼠川と猫井川が飲みながら話をするものです。
ちょっと、会話の描写が長いため、過去のヒヤリハットの部分が短めになってしまいました。
それでも、何をやって、何を学んできたかというのは大切ですね。
ところで、猫井川は昔ものすごく太っていたんですね。
体を使って働く内に、脂肪は燃え、スリムになってきたようでした。
きっと今でもお腹の皮膚には妊娠線があるのでしょう。
きちんと健康的な体型になったということは、猫井川にとっては、今の仕事は天職だったのかも。
次回には、飲みながらの話は終わらせたいなと思っています。
さて、今回のヒヤリハットは、保護具の内ヘルメットに関してのものです。
建設業の現場に限らず、工場内や倉庫作業、運送業の荷役作業などでは、保護帽、つまりヘルメットは必須です。
特に今や建設業の現場でヘルメットを被らないとなると、追い出させれも仕方ありません。
ヘルメットの役割は頭部の保護です。
何から守るかというと、上から降ってくる飛来物、頭部付近の出っ張り、墜落時の地面からです。
ヘルメットには、飛来・落下用と墜落用、あと電気用があります。
飛来用と墜落用は分かると思いますが、電気用は電気を通さない素材で出来ていて、電気工事の際に頭部からの感電を防ぐものです。
さて、ヘルメットには、正しいかぶり方があるのです。
ただ頭に乗せていたら大丈夫ということではないのですね。
当然のことながら、頭を覆っていないような、いわゆるアミダ被りなどは論外です。
また、きちんと頭を覆っていても、調整されていなければ、効果が薄くなります。
具体的な調整方法については、長くなるので割愛しますが、原則として頭の形に合わせるということです。
頭の周囲の合わせて、内部のバンドを狭くしたり、広げたりして調整する。
そしてあご紐の長さを調整して、グラグラしないようにします。
頭に合わない、またすぐに脱げてしまうようなかぶり方では、いざというとき役に立ちません。
猫井川の場合、頭の周囲の調整も、あご紐も緩いままの状態で仕事をしていたため、少し触れただけで、頭から外れてしまったんですね。
もし汗を拭う手ではなく、足場の鉄パイプやコンクリート構造物の出っ張りにあたっていたら、怪我をしたかもしれませんね。
とはいえ、今回のケースもあご紐が首を絞めて、階段から落ちそうになったということなので、結構危険でした。
さて、今回のヒヤリハットをまとめます。
ヒヤリハット | 汗を拭ったら、ヘルメットがずれて、あご紐で首が絞められ、倒れそうになった。 |
対策 | 1.ヘルメットのあご紐など、きちんと調整する。 2.汗が流れないように、ヘルメットの下にインナーを入れる。 |
ヘルメットの調整は、必ずやっておきましょう。
そして、ヘルメットは、あご紐を確実に着けましょう。
被っただけ、あご紐は接続されず、ぷらぷらしているのでは、全く意味がありません。
もしそんな作業者がいたら、注意してください。
そして、体を動かすので、どうしても汗をかいてしまいます。
そんな場合は、ヘルメットの下につけるインナーキャップやタオルを巻くなどができますね。
ただしその場合一つ注意点があります。
タオルなどを巻いて、ヘルメットが動いたり、ずれたりしないようにしましょう。
必ず、調整し、グラグラしないように固定しなければ、これもいざという時役に立たないのです。
保護具は命を守る最後の砦です。
猫井川の最初の教訓は、保護具の大切さだったというわけですね。
まだ2人の話は続きそうです。
次はどんなヒヤリハットが出てくるのでしょうか。