猫井川、兎耳長の能力に戦慄す
2015/05/30
こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。
猫井川は、兎耳長と一緒に、井戸の掃除に駆り出されました。 この仕事は、エスパニョール鼠川が知り合いに頼まれたものです。 しかし鼠川本人は、別の仕事に行かなければならず、猫井川と兎耳長で作業を行うことになったのです。 「・・・では、後はお願いします。 終わったら、連絡してください。」 依頼者である、鼠川の知り合いから井戸の場所を聞いた2人は、早速作業の段取りをそうだしました。 「この井戸のそこに土砂がたまって、水が汲み上げられないみたいですね。 結構深そうですけど、どれくらいあるんでしょうか?」 少しだけ蓋の開いた、井戸の中を覗き込みながら、猫井川が聞きました。 「うーん、たぶん7、8メートルというところじゃないかな。」 同じく蓋の隙間から中を覗き込む、兎耳長が答えます。 「へー、何で分かるんですか? とりあえず、蓋を外して、サンドポンプを突っ込んで、水を上げてから、掃除ですか?」 「うん、まずはそれがいいだろうね。」 作業方法としては、井戸の底に、多少の土砂があっても水を吸い上げられるサンドポンプを下ろし、水を抜く方針となりました。 「それじゃ、まずは蓋を外しましょうか。」 猫井川がそう言うと、鉄製の蓋を2人で持ち、取り外しました。 「蓋を外してから、改めて見ると、本当に深いですね。 ケーブル届くかな?」 少し井戸を覗き込み、猫井川はポンプの準備をします。 ポンプの吐出し口にホースをしっかり縛り、ロープを使ってゆっくりと井戸の中に下ろしていきます。 ポンプは重いですが、何とか1人で持てる程度の重さです。 猫井川はポンプを下ろしながら、 「兎耳長さん、ホースを溝まで延ばしていって下さい。 多分、長さは十分足りると思うんですど。」 と言いました。 兎耳長は、猫井川の指示に従い、くるくると巻かれていたビニルホースを広げ、水を吐き出し先になる溝まで持って行きました。 「こっちは大丈夫。 ケーブルは延長コードを使わないと、コンセントまで届かなさそうだね。 準備しとくよ。」 兎耳長は、延長コードを伸ばし、一方を発電機のコンセントに差し込みました。 「あ、底に付きました。 やっぱり凸凹してるみたいです。」 ポンプが井戸の底に設置すると、ケーブルを延長コードにつなぎ、準備は整いました。 「では、水を上げましょうか。 発電機入れて下さい。」 猫井川がそう言うと、兎耳長は発電機のスイッチを入れます。 ゴゴゴゴーンと唸りを上げ、少し煙を吐いた発電機は、動き出しました。 発電機が生み出した電気は、ケーブルを通り、ポンプを動かします。 ポンプは底開いた口から、水を吸い上げていきます。 吐出し口に取り付けた、ホースは徐々に膨らみ、その膨らみが溝まで来ると、勢いよく水を吐出します。 「さすがに、少し水が濁ってますね。 ポンプで土砂も全部吸い上げてくれればいいんですけど。」 「多少なら吸ってくれるけど、砂利とかになると難しいかも。 コンプレッサーとかあれば、楽だけど、うちにはないから、仕方ない。」 「はあ、やっぱり水が抜けたら、中にはいらないとですね。」 猫井川は吐出される、少し濁った水を横目に見つつ、井戸の中に入る準備を始めました。 しばらく水を吐き出してくると、少しずつ水量が減ってきました。 どうやら水を吸いきったみたいです。 「もう水が大体抜けたみたいなので、中には入ります。」 猫井川はハシゴを井戸の底まで下ろしました。 ガシガシとハシゴの足元を動かしつつ、しっかり固定します。 「じゃあ降りて、バケツに土砂を入れますので、兎耳長さんは引き上げて下さい。」 そう言うと、猫井川はハシゴに足を掛け、一歩二歩と降りていこうとしたときでした。 「降りるの、ちょっと待って!」 兎耳長が大きな声を出しました。 びっくりして、兎耳長の方を見ると、兎耳長は真剣な顔で、 「今降りていっちゃダメだ。多分井戸の底は酸欠状態だと思う。 酸素センサーを確か持ってきてたはずだから、確認しよう。」 「はあ、そうですか。」 本当に酸欠状態なのか、半信半疑ながらも、兎耳長の勢いに押され、猫井川は井戸の外に出てきました。 兎耳長は、酸素センサーを持ってくると、井戸の底に検知器を下ろし、計測します。 「あ、やっぱり。酸素濃度が17%だよ。18%を切ってる。 もしあのまま降りてたら、酸欠で倒れていたよ。」 「まじですか。」 兎耳長の持つセンサーには、はっきりと「酸素濃度 17%」と表示されています。 もし、兎耳長がストップをかけなかったら、きっと今頃は井戸の底で倒れていたことでしょう。 そう思うと、猫井川はぞっとしました。 「送風機も念のため持ってきてたから、換気してから作業しようか。」 兎耳長は、テキパキと車から送風機を下し、換気の準備をし始めました。 猫井川もその手伝いをしていたものの、ふと疑問が頭をよぎりました。 「でも、なぜ井戸の底が、酸欠状態だとわかったんですか?」 そうです。 兎耳長は作業前のチェックとして、酸素濃度を測ろうとしたわけではありません。 もしそうなら、猫井川が井戸に入ろうとしている前に、測定するはずです。 しかし実際は、猫井川が一歩二歩、ハシゴを降りようとした時に、ストップを掛けたのでした。 「なぜですかね?」 改めて、聞いてみると、兎耳長が答えました。 「うん。井戸の底の気流の音が、少しおかしかったからね。 前に酸欠している場所で聞いた音に似ていたんだよ。」 「えっ!?」 予想もしない答えに、猫井川は絶句します。 酸素が不足している気流の音って・・・ そんなのあるのか・・・ 何者なんだ・・・この人は 猫井川は、酸欠どうのこうのよりも、兎耳長の聴覚に対して、ぞっとしたのでした。 |
恐るべき兎耳長の聴覚に、一命を救われたお話です。
多才を誇る兎耳長ですが、謎の能力まで備えている事がわかりました。
この男は一体何者なのでしょうか。
おそらく、こんなことを言われたら、猫井川でなくとも、戦慄を覚えることでしょう。
さて、今回のヒヤリハットは酸欠で倒れたかもしれないというお話です。
酸欠とは、酸素が欠乏してる環境で発生する事故です。
通常の空気中では、約21%の酸素濃度があります。
しかし環境によっては、これよりも低い濃度になる場合もあるのです。
どういった場所で、酸欠状態になりやすいかというと、密閉されていて、空気の循環が乏しい場所です。
トンネルや洞窟、水槽、タンク内などのほか、下水のマンホールや井戸のようなたて穴でも、酸素濃度は低くなりがちです。
低濃度の酸素を吸うと、人は意識を失い、呼吸困難となり、最悪の場合、死に至ります。
酸素濃度の基準は、約18%以上であることです。
これより低い濃度だと、その場所に入ってはいけません。
低酸素の場所に入る場合は、換気をして空気を入れ替えてあげること。
もしくは、スキューバーダイビングのように、酸素を吸入できるマスクを着けます。
酸素濃度は、兎耳長が使ったような測定器で測ることができます。
その結果、送風機で換気をしようということになっていましたね。
酸素濃度の高い低いなどは、目で見ることはできません。
もちろん、兎耳長のような特殊能力を持つ人もいないでしょう。
少しでも酸欠が心配される場所で作業する前には、酸素濃度を測り、安全を確認してから、進入することが大事です。
無防備に入って、意識を失い、その場で倒れるという事故も少なくないのです。
それでは、ヒヤリハットをまとめます。
ヒヤリハット | 低酸素状態の、井戸の底に入りそうになった。 |
対策 | 1.たて穴等に入る前には、酸素濃度を測定する。 2.換気を行う、または送気マスクの着用を行う。 |
酸素濃度は、目に見えないだけでなく、常に変化します。
もし何日か続けて作業する時でも、昨日までは大丈夫だったのに、今日は急に濃度が低いということもあります。
必ず作業前には酸素濃度を測定することが大事です。
また、酸欠で倒れた人を救出する場合も注意が必要です。
急いで近づくと、自分も倒れます。
そして、こういった事故は非常に多いのです。
救出には一刻を争いますが、二次被害にならないよう、対策をしてから進入することが大事です。