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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

優秀な機械は、ヒューマンエラーを増大させる。

      2015/05/30

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機械は人から仕事奪います。

90年代半ばから加速化したIT革命は、生活や仕事の仕方を大きく替えてしまいました。

個人個人がパソコン、スマホを持つのは当たり前になりましたし、ありとあらゆることがコンピューターで制御されるようになってきました。

先日、アメリカの調査会社の予測で、今後もIT化により、今後20年で消えてゆく職業も少なくないとのことでした。

今やコンピューターで制御されない仕事は、多くありません。

実際、多くの人が携わる必要のある建設業であっても、測量や出来形のみならず、IT化は進んでいるのです。

しかも、大和ハウスでは、作業員に重量物を持つ時にサポートする、ウェラブルスーツを導入するとか。
これは重いものを持つ時、機械が支えてくれるので、力を入れずに持ち上げられるようにするものです。

このニュースを見た時、Twitterなどでは、「アイアンマンが現実化か」という感想がよく見かけましたが、私は「未来少年コナン」のロボットを思い出してしまいました。
かなり古いイメージですね。

それはさておき、SFの話だったものが、現実になってきているわけです。

工業製品の発達は、製造ラインでも目覚ましいものがあります。

今まで人がやっていたものを、機械が行う。
それにより、人が行ってきた仕事が、どんどん減ってきました。

それでも、機械化当初は、人が関与しなければならないことも多かったです。
故障もしすれば、メンテナンスも頻繁に行う必要がありました。

目をかけ、手をかけして、機械と付き合ってきたのです。

ところが、最近は、機械は優秀になり、手のかからない物になってきています。

手のかからない、いい子になってきているですが、優秀な機械がために、問題も起こってきているようです。

「安全スタッフ」(労働新聞社)のバックナンバーを読んでいたところ、平成27年3月1日号の特集で、このような記事がありました。

その記事は、「化学工場爆発に共通要因」という特集で、昨今頻発している化学工場の爆発事故について検証した記事です。

化学工場の事故としては、平成26年1月に三重県四日市市で三菱マテリアル四日市工場で大規模な爆発があり、17人が死傷するという事故がありました。

その他にも、同じ年の5月に東京町田市の工場で、マグネシウムが発火する事故があり、また8月に群馬県太田市で、塩素ガスが漏れる事故などがありました。

工場の爆発や火災は、働く作業者だけでなく、周辺の住民にとっても影響が大きくなります。

化学工場は、製造過程で猛毒の物質を扱うことも少なくありません。
青酸カリなどのシアン化化合物も、ミステリーでは殺害の手段としてお馴染みですが、そうそう一般に出回るものではありません。
しかし製造過程では、シアン化化合物を必要とする工程もあります。

中にはもっと猛毒なもの、ほんの少量で多大な影響を与えてしまうものも、少なくありません。

私の子どもの頃の話ですが、町内に皮革加工の工場がありました。

あの工場では「六価クロム」という薬品を使っていて、この薬品を体に取り込んでしまうと、鼻の穴がつながってしまうのだと、聞かされたことがありました。

もちろん六価クロムを扱っていたとしても、そのまま排水することはないでしょうが、当時の私はバカボンに出てくる本官さんみたいになるのではと、怖くなったのでしょう。今だに覚えています。

化学工場は、取り扱い注意の薬品や物質をたくさん抱えているのです。

そんな工場で爆発事故などが起こるのですから、恐るべきことであると言えます。

記事では、原因は3つあるのではないかと仮説を立てられていました。

1.機械の自動化、デジタル化。

2.熟練工の退職。

3.管理職作業のオーバーフロー。


この3つです。

2の熟練工の退職は、理由として想像できますね。
団塊の世代が、これからどんどん定年を迎えていきます。
知恵と技術を持った人たちが、ごそっと会社からいなくなります。

技術や知恵など、データ化できないものの継承が課題だという会社も少なくないはず。

製造ラインの機会の取り扱いについても、熟練工なら分かっていたことが、残された人たちでは目も手も届かないことがあるようです。

そのため、異変に気づかず、未然に防げず、爆発に至るのです。

これは教育などの話になるかもしれませんが、事故という形でも、問題が表面化しているようです。

3の管理職のオーバーフローとは、つまり管理職が抱える仕事が多すぎる状態だということです。
製造ラインの機械化により、人は減ります。しかし生産性はあがります。

それをまとめる人の能力は劇的に上がりません。
時間ばかりが取られてしまいます。

管理職が忙しくなると、作業者とコミュニケーションする時間が減ります。

そうなると、巡回することも、危険を発見することも、注意することも、別のラインとラインの仲立ちをすることをも、全て後回しになるのです。

人を増やせばいいという考えもありますが、そう簡単にもいかないというのも分かるのではないでしょうか。

ベテランがいれば、細部に目が届きますが、それもありません。
管理職が忙しければ、全体を見渡せません。ライン同士を仲介することもできません。

その結果、作業者は自分のテリトリーの仕事に集中し、テリトリー外で何か問題が合っても、気づきにくい状態になるのです。

物事には、目に見えるハード面と、ソフト面がありますが、原因の2と3はソフト面の問題と言えます。

1は、ハード面の問題と言えます。

機械は本当に優秀になりました。
メーカーは日々、より良いものを作り、世に送り出します。

安全装置だけでも、おせっかいなくらいになっています。

身近な所で、機械が進んだこと感じるのは、車ではないでしょうか。
ハイブリッド車に限らず、最近の車はコンピューター化が進んでいます。

前に障害物があれば自動的にブレーキを踏んでくれたり、自動運転も実用化もそう遠くないはずです。

とはいえ、毎日燃費について、大声で読み上げてくれたりするのは、不要なんですけども。

工場で使用される、あらゆる機械も、進化しています。
作業中にかかる手間も非常に少なく、操作も側でボタンを押すとかではなく、中央コントロールだったりします。

全てを機械が、機械自身で行ってくれるようになっているのです。

そうなると、ほとんど人が目をかけてやることも、手をかけてやることもありません。
必要最低限で済みます。

これが、爆発事故の背景にあるようです。

機械に手がかからないと、直接触ることはほとんどありません。
触ることはないのですから、慣れることもありません。

しかし手がかからないといえども、機械は機械。
長年使うと疲労しますし、故障もします。
メンテナンスは、まだ機械自身ではどうしようもないのです。

故障した時には、人が治す必要があります。
しかし、普段触っていないものだと、経験がありません。

事故は、修理やメンテナンスなどの、日常業務から外れた作業の時に起こりやすいようです。

機械について詳しくないので、危険のポイントなどが分かりません。
小さな子どもは、ストーブが熱いものだと分からず、手を出そうとしたりしますね。
経験不足、慣れない機械の修理は、多かれ少なかれ、子どもがストーブの周りでウロウロしているのと変わらないのです。

どこが危険かを察知する能力を、記事の中では、「リスク感性」と呼んでいます。
感性とは、感受性が高いなどという使い方をするものと同じものです。

一度ストーブの危険性を知ったら、ストーブの形がどんなに変わっても、熱くなっている所は触りませんね。

全く同じ機械でないにしても、同種の機械に触れてきていたら、経験から危険ポイントは分かるものです。
優秀な機械は、手をかけさせないため、この経験を奪ってしまっているのです。

機械化の弊害ともいうべき、なんとも本末転倒なのでしょうか。

では、機械に触れる経験を積ませようとしても、そう簡単にはいきません。
なぜなら今の仕事を大きく変えることもあるからです。

要はバランスが大事ということになるのでしょうが、難しい問題といえます。

簡単に、こうしようと決められる話ではありませんが、このような事故の背景を探ること、特に「なぜ」を追求することは大事です。

事故を追求する時に、間違ってはいけないのは、「誰」に焦点を当てていけません。
事故が起こった時の担当を責めるのは、意味がありません。
たまたまその人の時に起こったにすぎないのです。

「誰」を追求するのは簡単ですし、分かりやすいです。
それに攻めやすいです。

しかし解決になりません。

また直接原因だけを洗い出し、対策だけで終わるのも、ちょっと待ちましょう。

直接原因に対する対策も必要ですが、ぜひもう一歩踏み込みましょう。

もう一歩、事故の「なぜ」を探ること。
根本的な解決策は、「なぜ」の先にしかありません。

解決には費用はかかります。時間がかかることもあります。意識改革が必要かもしれません。
全くもって、一筋縄ではいきません。

しかし、不幸にも事故を起こした工場も、間違いなく世に役立つ製品を生み出してきた会社さんです。
世の中にある問題の1つを解決してきた会社です。

そう考えると、社内にある問題を解決する、能力はあるはず。
ちょっと格好いい言い方をすると、あなたの会社にリソースはあるのです。

事故を単に事故としてみるのではなく、何か問題を考えるきっかけとなる良い機会になるのではないでしょうか。

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