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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

下水処理場で転落 東京都職員が死亡

      2015/05/30

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水はインフラです。

水と聞いて、真っ先にイメージされるものとしては、海や川などの流れではないでしょうか。
そしてそんな水を生活に取り込んでくるのが、上水道です。

上水道は、生活用水や飲料水として、浄水場からあらゆる場所に張り巡らされたパイプを通り、各家庭や会社に届けられます。

しかし水の役目は、届けられて終わりではありません。

使用された水もまた、下水としてしっかり管理されているのです。

下水に流れるものは、生活排水やし尿などの汚水です。

汚水を汚水のまま川に流すことはできません。
汚染してしまうからです。

汚水を川に戻せる状態にまで、きれいにすること。
これが下水道処理場の役割なのです。

下水道処理場の仕事は、ありとあらゆるものが取り込まれた汚水から、固形物を取り除き、微生物の力を使って水の中の汚れを分解していくことにあります。

下水処理場は、下水を扱うので臭いもしますし、衛生的に敬遠してしまうかもしれません。
しかし清潔で、健康的な生活のためには、必須です。

先日、東京都の下水処理場で、事故がありました。

職員が汚水プールの中に転落してしまったのです。

何時間か後に発見されましたが、亡くなられました。

今回は、この事故の原因を推測し、対策を検討します。

下水処理場で転落 東京都職員が不明に
(平成27年4月17日)

17日午前9時50分ごろ、東京都港区港南の下水処理場「芝浦水再生センター」で、同施設の整備係長が反応槽のふたの開閉作業中に槽内に転落し、行方不明になった。東京消防庁のレスキュー隊が捜索作業を進めている。

 都下水道局によると、被災者が転落した反応槽は深さ約12メートルで、内部は暗く、泥水で満たされている。微生物の出す泡で押し上げられた反応槽上部のふたを戻す作業をしていた。現場にはほかに職員ら4人がおり、警視庁高輪署で転落時の状況などについて事情を聴いている。

産經新聞

この事故の、後追い記事もあわせて紹介します。

下水処理場で転落 都職員の死亡を確認
(平成27年4月17日)

東京都港区港南の下水処理場「芝浦水再生センター」で17日午前、都職員が反応槽に転落した事故で、都は同日午後、千葉さんの死亡が確認されたと発表した。

都によると、千葉さんは反応槽上部にあるふた(重さ約50キロ)の開閉作業中に、深さ約12メートルの反応槽内に転落し、行方不明になった。東京消防庁のレスキュー隊のダイバーが捜索したところ、汚水内で千葉さんを発見。午後2時20分ごろに引き上げたが、心肺停止状態だった。

産經新聞

この事故の型は「おぼれ」で、起因物は「下水道設備(反応槽)」です。

反応槽とは、流れこんできた汚水から、大きな固形物を取り除いた後に送られる水槽です。
微生物が、汚れを取り込み、そして分解し、水をきれいにしていきます。
生物が汚れに反応しているので、反応槽というのです。

この反応槽では、常に水をかき回してやる必要があります。
微生物をまんべんなく送ることと、空気を入れてやるためです。
これをばっ気といいますが、反応槽では常にばっ気によってぶくぶくと空気を送り込んで、かき回しています。

汚れが取り除かれた水は、上澄みになり、次の段階に移っていきます。
分解された残りは固形になり、底にたまるという仕組みになっています。

大雑把に言うと、このような仕組みになっています。

今回事故が起こったのは、この反応槽です。

反応槽は、下水道設備の中で最も中心になるところです。
汚れを分解するには、長時間かかるため、長い間貯めこまなければなりません。
とはいえ、ひっきりなしに汚水は流れこんでくるのですから、必然的に水槽は大きく深いものになるのです。

特に東京都1000万以上の都民の排水です。
その内の1%分を処理するにしても、10万人分。
地方都市の全人口を越える量になります。

これらの量を処理するためには、1つ1つの処理場も大きなものを必要としますし、水槽も大きなものになります。

事故のあった水槽は、深さが12メートルありました。
しかも、汚水でその色は茶色に染まっています。視界はほぼありません。

ばっ気により空気を含んだ水ですので、沈みやすく、浮き上がることは困難です。
この水槽では、泳いで浮かぶ間もなく、底に沈んでしまうのです。

発見しようにも、どこにいるか分からず、最終的にレスキューがダイビングで見つけたそうです。
潜る人は、ものすごく嫌だったろうなと思います。

事故は重さ50キロもある蓋の開閉時に、起こってしまいました。
このような開口部での作業であれば、転落に備えた対策をしなければなりません。
それが行われていなかったのは、事故の結果から、確かのようです。

またこの日は、別の場所では、下水道工事中に、大雨による土砂崩れ事故が起こりました。
雨になりやすい天候だったようです。もしそうなら、この作業場は濡れて、足も滑りやすかったのではと、推測されます。

原因を推測します。

1.水槽作業中に、転落してしまった。
2.安全帯の使用など、転落対策をとっていなかった。
3.蓋を戻す、作業手順などが決められていなかった。


作業は1人で行っていたわけではないようですが、重量物の取り扱うとき、どうしても足元はふらつきます。

水槽の口がぽっかり空いた場所での作業です。
見慣れた場所であっても、転落する危険はあります。

開口部付近での作業なのですから、手すりなど転落防止柵を取り付けるのが無理だとしたら、転落防止のために安全帯を使用する必要があったのではないでしょうか。

行き慣れた場所で、毎日のよう行っている作業で、逐一安全帯を着けるのは手間でしょう。
しかし、安全帯はいざという時に備えるものです。
もし使用していたら、落ちたとしても、沈み込まず、救助できたのではと思われます。

また作業方法自体が適切であったかを確認する必要があります。
作業手順書が定められていたか。またあった場合、手順通りに作業していたかです。

手順書に安全帯を使用することが書かれていたのかどうかも重要です。

対策を検討します。

1.開口部付近での作業は、転落防止対策をとる。
2.重量物は1人では持たず、足場を確保してから行う。
3.作業手順書に転落防止対策を盛り込む。
4.作業者は手順書を守るように徹底させる。


浮き上がった蓋を戻す作業は、おそらく日常業務ではなかったと思います。
日常業務は施設の点検や、水質の調査が主になるでしょう。

いわば非定常の作業と言われるものです。

非定常の作業は、臨時に行われるものなので、慣れていない作業になります。
慣れない仕事では、事故が起こりやすい傾向にあります。

今回も日常業務から外れた作業のため、段取りが十分でなかったのかもしれません。

しかし、開口部や高所の端では、落ちないようにすることが大事です。
安全帯は、命綱。

作業の邪魔にになるかもしれませんが、いざという時に大事なものなのです。

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