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橋梁工事で転落の作業員1人死亡、3人重軽傷(北海道木古内町)

      2016/06/05

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橋の工事は、ほとんどの場合規模が大きく、工事の期間も長くなります。

橋の工事が始まってもなかなか開通しないなと思ったことはありませんでしょうか?
これは仕方ないんですね。

橋はまず基礎を固め、橋脚を作ります。
橋脚ができたら、すぐに橋梁、つまり道ができるかというと、そうではないのです。

橋脚だけがポツーンと立っていて、放置されている姿も見たことがあるのでは。
あれは、地盤が安定するまで、放置しているのです。

橋脚は非常に重いので、地盤沈下が起こります。
地盤の強度にもよりますが、少なくとも1年は待ちます。

その後、橋梁工事が行われるのです。

橋梁工事も、一筋縄ではいきません。
橋脚の高さは、低くとも5メートルくらい、高い場合は地表から数十メートルの位置で作業します。

点々と立つ、橋脚の間には、何もありません。
その間に道を作っていくのですから、常に墜落の危険と隣り合わせです。

大規模で、多くの人が作業を行う仕事ですので、全体の管理に目を光らせるのが、請け負った会社の責務です。

しかし十分に注意を傾けていても、事故は起こってしまいます。

北海道の木古内町では、山間部に新しい橋を作る工事が行われていました。

橋脚完成後の、寝かせ期間も過ぎ、橋梁工事の時に、大きな事故が起こりました。

工事の最中に、作業者が墜落し死亡するという事故が起こったのでした。

今回は、この事故について原因の推測と、対策を検討してみます。

index_arrow 事故の概要

事故の概要について、新聞記事を引用します。
なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。

転落の作業員1人死亡、北海道・木古内の橋工事 命綱なしで作業、3人重軽傷
(平成27年6月5日)

渡島管内木古内町釜谷の函館江差自動車道の橋工事現場で4日午前に作業員2人が転落した事故で、このうち1名が脳挫傷で死亡した。

一緒に転落した函館市内の40代男性作業員も骨盤を折る重傷。2人は建設中の大坪沢川橋(延長約140メートル)の橋桁から約20メートル下の谷底に転落した。

また、橋桁で作業していた同市内の50代男性作業員が足の骨を折る重傷、檜山管内厚沢部町の20代男性作業員も膝などに軽傷を負った。

木古内署や開発局などによると、4日午前11時20分ごろ、橋桁を敷設するための「架設(かせつ)桁」(長さ約80メートル、高さ約2メートル、幅約2メートル、重さ約70トン)と呼ばれる水平の部材を橋脚と橋脚の間に渡し、持ち上げる作業をしていたところ、支えていた油圧式ジャッキが突然傾き、ジャッキの下にあった重さ約200キロの台座がはじき出され、その衝撃で被災者ら2人が転落した。転落しなかった男性2人も傾いた架設桁などに挟まれた。

 工事を受注した会社によると、当時、現場では元請け、下請け企業の作業員13人が作業をしていたといい、同社は「架設桁をジャッキアップしていたが、バランスが崩れてジャッキが外れた」としている。4人は命綱をしていなかったという。

北海道新聞

この事故の型は「墜落・転落」で、起因物は「構造物・仮設物」です。

この事故は、橋梁工事で、仮設桁を設置する作業の時に置きました。
本設の橋桁(橋脚間の道)を設置する前に、仮設の桁を通し、これを支えにして、材料を運び込んだり、コンクリート製の部品を設置したりします。

この仮設桁は、工事の間、点同士である橋脚をつなぐ線になるのです。

仮設桁は、長さが80メートル、重さが70トンもあります。
動かそうとすると、下部にレールなどを敷いてあげるなどが必要です。

巨大な鉄の塊の下部に、隙間を作るため、油圧ジャッキが必要です。

ジャッキは、オプションで車に付属していたりしますが、ほんの幅30センチ程度の小さなものでも、1トンもある車体を持ち上げます。
車に付属している物の多くは、ネジを締めることで持ち上げるタイプ。いわば機械式です。

油圧式は、もっと強い力を発揮します。 車のブレーキも、油圧の力を使っています。軽くブレーキを踏むだけで、車が止まるのは、踏んだ力を油圧で何倍にもしているからです。

油圧ジャッキ1つでは無理ですが、複数で使うと、70トンもの重量を持ち上げることができるのです。

事故は、仮設桁が油圧ジャッキで持ち上がっている最中に起こりました。

ジャッキは1点に力を集中させますが、持ち上げている最中に、乗っかっている物体が動くと、容易にバランスを崩します。
そうならないように、固定するのですが、今回はバランスを崩し、ジャッキの下にある台座を弾き飛ばすほど、勢いよく傾いたのでした。

弾き飛ばされた板の先には、不運なことに作業者がいました。 勢いのついた台座の重さは約200キロ。
これが、作業者を弾き飛ばし、20メートル下の谷底に追いやったのでした。

それでは、原因を推測していきます。

index_arrow 事故原因の推測

事故の直接原因は、仮設桁が傾いたことによるものです。
一番に考えられることは、ジャッキアップの位置が適切ではなかった、また固定がしっかりされていなかったことでしょう。

作業方法が適切だったのか、計画通りの位置にジャッキは設置されていたのか、また計画通りに作業が進められていたのかなどが、捜査で明らかになっていくことでしょう。

作業計画作成にも関係しますが、5メートル以上のコンクリート製の橋の工事では、コンクリート橋架設等作業主任者を選任しなければなりません。
作業主任者は、作業計画作成に関わるだけでなく、現場で直接作業の指揮をとるだけでなく、作業者の安全対策についても監視します。

どうやら、この作業主任者の業務が行われていなかったのも、被害拡大になったようです。

台座が飛んでくるなどの、想定は困難だったとはいえ、墜落した2名が立っていた位置は、問題なかったのでしょうか。
怪我をした2人は、傾いた桁にはさまれました。仮設桁に接近していた位置は、適切だったかも問われます。

事故現場の写真を見てみると、詳細までは分かりませんが、橋脚間は墜落防止ネットが張られています。 また橋脚の周囲には、手すりがあるようです。

しかし、仮設桁は橋脚の天端より一段高い場所に設置されています。 この作業場の左右には手すりなどは、写真を見る限りなさそうです。
もしかすると一時的な作業のため、手すりなどは省略されたのかもしれません。

また作業者は命綱を着けていなかったとのこと。
仮に手すり等の墜落防止設備を設けない場合は、安全帯など命綱を使用しなければなりません。

これは作業者本人の問題でもありますが、作業主任者の責務でもあります。

事故は、普段からの安全意識、対策により被害が拡大することもあります。

それでは、原因を推測してみます。

作業計画、作業手順の不備で油圧ジャッキが確実に固定されていなかったこと。
作業主任者が作業の監視、指導を行っていなかったこと。
墜落防止対策、保護具の着用が不十分だったこと。
作業者や管理者の安全に意識が低かったこと。

それでは、対策を検討します。

index_arrow 対策の検討

作業計画、作業手順、作業方法の進め方などが合わさって、事故が大きくなったといえます。

作業計画は、実際に行なう方法でなければなりませんが、考慮しなければならないのは、安全対策です。

特により詳細な作業の進め方をまとめた、手順書では、具体的な安全対策も盛り込まれているはずです。 これは実行しなければなりません。

作業主任者であれば、入場時に作業者が安全帯やヘルメットを着用しているかどうかをチェックします。
そして、入場時のチェックだけで終わってはいけません。
途中で、ヘルメットを脱いでいないか、安全帯は使用しているかなどの監視もします。

作業者を含め、十分な墜落対策がない状態で作業を進めていたことから、全体的に安全意識、危険に対する意識が低かったのではないでしょうか。
安全教育やKYなどもありますが、安全に作業を進めることを徹底する意識を植え付けなければなりません。

よく工事現場には、「安全第一」などの垂れ幕を付けていますが、こんなものには効果はありません。
作業者にとっては、ただのデザインであり、ただの対外的な宣伝にしかすぎません。

作業者個人個人に指導し、直させる。
一度や二度ではなく、何度も繰り返さないと伝わりません。

毎月の安全教育や、毎日の朝礼、作業中も常に言い続け、徹底させることが、元請業者や現場を請け負っている業者の責任といえます。

対策をまとめてみます。

安全で適切な作業計画を作成し、実作業でも手順を守らせる。
作業主任者は、作業や保護具の着用などを監視する。
手すりや安全帯などの墜落防止対策を徹底する。
日常的な関わりで、作業者の安全意識を高める。

安全な作業とは、その時だけではなく、日常的な教育やコミュニケーションが大切になります。 突然起こってしまうのが事故です。
普段は何もなくとも、その備えを怠っては、いざという時に被害が大きくなってしまいます。

ところで、橋梁工事で、油圧ジャッキがズレてというので、すぐに思い浮かんだのは、1991年起こった「広島新交通システム橋桁落下事故」でした。

事件のwiki 広島新交通システム橋桁落下事故

これは市街地の工事で、橋桁が道路に落下したという事故です。
長さ63メートル、重さ60トンの橋桁が落ちた先には、車が並んでおり、これらを押しつぶしました。 この事故では、作業者を含め14人が死亡し、9人が重軽傷を負いました。
車に乗っていた人たち9人は、押しつぶされ、即死だったそうです。

今でも事故直後の写真を見ることができますが、車がぺしゃんこになっていて、とても凄惨な状態です。

事故の詳細については、「建設事故」という本に詳しく書かれています。

橋の事故は、高所で行なうことが多いので、被害が大きくなります。

墜落や落下の対策をいかにするかも、橋脚、橋梁工事では大切なことといえます。

index_arrow 違反している法律

この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。

第517条の17
事業者は、高さ5m以上、または橋脚の間が30mを超えるコンクリート橋架設等作業において、
技能講習を終了した作業主任者を選任すること。

こちらについて、解説している記事は、こちらです。
作業主任者の業務 その2

第519条
   高さが2メートル以上の作業床の端、開口部等には、囲い、手すり、覆い等を設けなければならない。

こちらについて、解説している記事は、こちらです。
最も多い事故。墜落・転落事故の防止。

第529条
建築物、橋梁、足場等の組立て、解体又は変更の作業を行なう場合は、指揮者を指名して、指揮させなければならない。

こちらについて、解説している記事は、こちらです。
最も多い事故。墜落・転落事故の防止。 その3

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