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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

ショベルカーが斜面から転落する事故。

      2017/02/02

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建設業は、1つとて同じ現場はありません。

もちろん、似たような状況や場所はあるので、多くの場合はパターン化することもできます。

パターン化できたとしても、やはり所違えば、勝手も違います。
全く同じではありません。

また繰り返される作業自体は慣れを生み、作業場への注意を疎かにしてしまいます。

これはどんなにベテランであっても、変わりません。

私の近くの会社で、先日事故がありました。
どんな事故かというと、河川工事で堤防の盛土にショベルカーで登ろうとしたところ、滑り落ちたという事故です。
この事故ではショベルカーの運転者が死亡しました。

これは本作業ではなく、移動時です。
ただ機械を動かすときでも、事故は起こってしまうのです。

index_arrow 事故の概要

詳細な状況とまではいかないのですが、事故概要をまとめます。

この工事は、災害対策のため河川の幅を広げるため、新たな堤防を作る工事の時に起こりました。

ショベルカーで盛土をして、堤防を固めていく作業を行っていましたが、ショベルカーで堤防の上に登ろうと、斜面を上がっていきました。

ショベルカーが斜面から滑り、逆さまに転落しました。

ショベルカーの運転室にいた運転者が、逆さまになったショベルカーにはさまれ、死亡しました。

この事故の型は「墜落・転落」で、起因物は「ショベルカー」です。

新聞記事になったいるわけではないですし、直接事故を見聞きしたわけではないので、詳細については曖昧なのですが、状況としては分かるでしょうか?

簡単にまとめると、斜面を登っていたショベルカーが転落し、運転席の運転者が下敷きになり、亡くなったという事故です。

事故を起こしたショベルカーは、バケット容量が0.8m3クラス(一掻きで、約1.8トン)だと、車体重量はおよそ20トンにもなります。
運転席は頑丈にできているとはいえ、20トンの重量がかかってしまうと、中の人にも被害が及びます。

それでは、原因を推測していきます。

index_arrow 事故原因の推測

ショベルカーの足回りは、タイヤのものもありますが、クローラー式、つまりキャタピラーになっているものがあります。
河川敷のように、舗装されていない場所では、クローラー式のほうが、よく使われます。

クローラーの特徴は、土や砂利などいわゆる悪路でも、平気で走れることです。
タイヤだと窪みにハマって動けないという場所でも、余裕です。

また接地面積が広く、グリップ力があるので、かなり急な斜面でも登ることができます。

いくつかのメーカーでカタログを見てみると、登坂可能は70%、角度言うと35°の斜面を登ることができるそうです。
35°の斜面というとかなりの角度ですね。 歩いて登るにも、手をついて登らなければならないほどです。

そんなところも登ってしまう能力が、ショベルカーにはあるのです。

しかし、無条件ではありません。
構造を見てみると、車体本体の一方に、アームが延び、その先に爪つきのバケットがあります。
これだけだとバランスが悪く、傾くので、アームと反対部分には、カウンターウェイトという重りを持ちます。 これによって、片方だけが長く突き出した、アンバランスな構造に均衡を保っているのです。

平地では問題なくとも、アンバランスな体は斜面では、注意が必要です。

斜面を登る時は、アームを斜面の下方向に向け、後進で登ります。
アームを上に向けてしまうと、ひっくり返ってしまうのです。

登る時の進行方向とスピードも大事です。
斜面に対して直角に、ゆっくり登らなけれけばなりません。

また路面のコンディションも重要です。
雨降りの後十分に湿っていると、クローラーでも滑ってしまい、登ることができなくなります。 それに大きな石などがあると、乗り上げる可能性もあります。

登る能力はあるものの、斜面の登り降りは、慎重さを要する大仕事なのです。
何かが少し崩れるだけで、バランスを失います。

おそらく、直接的な原因としては、当日の斜面の状態、事故はアームの向き、登坂時のスピード、角度、操作により、バランスを崩し、転落したものと推測されます。

直接的ではなく、現場作業の進め方に原因があったとも考えられます。

ショベルカーなどの車両系建設機械の作業では、事前に現場の調査を十分に行い、それを元に作業計画を立てなければなりません。
作業計画には、機械の能力や作業方法、運行経路などを盛り込みます。

ショベルカーによる斜面の登り降りは、掘削作業などと異なり、移動に過ぎないので、計画から漏れやすいでしょう。 しかし運行経路として、どのように登り降りするのかを決めておくことは求められます。

さらに、斜面の登り降りのような場合では、誘導者を選任し、誘導者が周りの状況を見ながら、機械を誘導することも必要です。

このような措置がされていたかどうかも、調査されるでしょう。

それでは、原因を推測してみます。

斜面の登坂中に、滑り落ちたこと。
登坂方法などの作業計画が定められていなかったこと。
誘導者が定められていなかったこと。

滑り落ちた、転落した直接原因が何かということが分かりません。
おそらく斜面の状態や、登る角度、登坂中にアームを動かしたなど、いくつかの原因が重なってのことと推測されます。

作業計画や誘導者などは、作業を行なうにあたっての準備で必要なことです。

いずれも、作業に対して、どのように行なうのかが不明確であったことが事故の背景にありそうです。

それでは、対策を検討します。

index_arrow 対策の検討

ショベルカーが斜面に登る、または降りるという作業は、機械の能力的に可能とはいえ、慎重さを要します。

運転者は、それなりに経験を積んだ人だったのかもしれません。
斜面の登り降りについても、幾度と無く経験があったのかもしれません。

どんなに経験者であっても、状況などにより、事故を呼びこむタイミングがあります。

登坂中に、誤ってレバーに触れ、アームを旋回してしまう。
これだけでも、バランスを崩し転落してしまいます。

車両系建設機械の移動や作業時には、次のことに注意が必要です。

事前準備
 1.作業場の地形、地質などの調査を行う。
 2.調査結果を元に、作業計画を作成する。  
  作業計画には、作業方法などの他、運行経路なども盛り込む。

移動時の注意
 1.路肩や開口部付近、ひどく凹凸のある場所などで、
  転落、転倒の恐れのある場所では、誘導員に誘導させる。
 2.走行中はバケットを持ち上げ過ぎない。
 3.機械能力を越える斜面は登らない。
 4.斜面走行は旋回しない。急激な方向転換などを行わない。

作業時の注意
 1.機械の作業範囲は立入禁止とする。どうしても立入る場合は、誘導員に誘導させる。
 2.転落・転倒の恐れのある場所では、誘導員を配置すること。
 3.機械能力を超える無理な作業は行わない。
 4.原則として、吊り荷作業など、用途外使用は禁止。行う場合は、必要な措置をとる。

1つの作業だけに原因を求めるのではなく、計画や準備、作業方法、作業時の体制などが、事故の背景にあることを忘れてはいけません。

対策をまとめてみます。

斜面登坂時には、経路や運転方法を取り決め、作業に当たる。
誘導者に誘導させる。
機械の移動についても、作業計画を定める。

昨年も土砂災害などがありましたが、災害の後には復旧工事と災害防止のための工事が行われます。
この工事の一環で、河川の幅を広げたり、堤防を作ったりします。

需要としては、今後も増えてくるでしょう。

そのような工事で活躍するのが、ショベルカーなどの車両系建設機械です。
これらの機械がなければ、仕事になりません。

しかし、使い方を間違えると、とても大きな事故になってしまうのも事実なのです。

建設業は、全ての作業が、非定常作業です。
1つとて同じ現場はなく、全てオーダーメイド仕様です。

そのため、施工計画を立てることはできても、個々の作業について、確実な手順を定めるのは難しいでしょう。

決められるとしたら、標準作業手順などです。

バックホーによる、斜面の登り降りは、河川工事や山裾の工事ではありふれた、標準作業と言えます。 この作業手順に現場特性を踏まえて、作業を行なうことが重要です。

そして、何よりも現場ごとにどこに危険があるかを、調査段階で検討することも大事です。
調査は主に測量になりますが、同時にどこが最も危険かを見定めることが、今後現場監督に求められるスキルかもしれませんね。

建設工事で、事故を起こすとペナルティがあります。 もちろん刑事事件等の責任や、被害者への保障もありますが、行政処分も痛手です。
自治体によりますが、だいたい数ヶ月から、1年程度の指名停止処分が下されます。

指名停止期間は、直接工事を受注することはできません。
また下請けに入るのも、嫌がられます。

1つの事故がもたらす影響は小さくないのです。

だからこそ、事故が起こる前に、いかに防ぐかがポイントです。

ショベルカーは使う頻度が非常に多い機械ですので、どういう事故が多いのかも推測できます。

大事故を防ぎましょう。

私自身の身近で起こった事故のため、特にそう感じたのでした。

index_arrow 違反している法律

この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。

第154条
車両系建設機械を用いて作業を行なうときは、作業場所の地形、地質等を調査し、記録しておかなければならない。
第155条
車両系建設機械を用いて作業を行なうときは、調査結果を元に作業計画を定めなければならない。
第156条
車両系建設機械の適正な制限速度を定めなければならない。
第157条
車両系建設機械を用いて作業を行うときは、転倒防止のための措置をとらなければならない。
第157条の2
転倒又は転落の危険のある場所では、車両系建設機械の運転者にシートベルトを着用させるよう努めねばならない。

これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。

安全に車両系建設機械を使用するための措置

安全に車両系建設機械を使用するための措置2

ところで、斜面で作業するショベルカーとして、こんなのを見つけました。 見た瞬間、目を疑うような、驚愕の工法です。

大昌建設株式会社 高所法面掘削機による掘削工法(NETIS登録 No. KT-010076-V)

急斜面での工事の際には、参考になるかも。

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