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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

本当は怖い、安全配慮義務という責任

      2017/04/08

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事故が起こったら、どういうことになるでしょうか。

自己の責任は誰のもの?

まず、事故に巻き込まれた本人は怪我、時には命を落とすこともあります。
これが最も深刻なことです。 家族にとっても、深刻な出来事になりますよね。

そして同じように、事業者も大きくダメージを受けます。
ただ単に社員を1人失ったというだけに留まりません。

事業者は、事故を起こさせたことにより、責任を問われてしまいます。

労働者が仕事で事故や病気にならないようにすることを、事業者の安全配慮義務と言います。

労働者に多大な過失がある場合は多少考慮はあるでしょうが、原則として事故は事業者の責任です。

事業というリスクを考えた場合、この安全配慮義務は軽視できませんよね。
むしろ作業者だけに任せきり、自分たちは知らないということが非常に危ういのではないでしょうか。

この安全配慮義務は、事業者・経営者だけの責任ではありません。
事故を起こした労働者の監督的立場の人にも及びます、 具体的には、現場監督やライン長、工場長、部課長などです。

事故が起きた時に、このような質問がかけられます。

なぜ起きたのか?
事故対策をしていたのか?
指導はしていたのか?
作業状況を見て、危ないことをしていたら指導したのか?

仮に労働者が、手順にないことをやっていたとしても、それを防がなかった、教育していなかったことが、安全配慮義務違反に当たります。

なんて理不尽なと思うかもしれませんが、ものすごいリスクです。

事業者や監督者は、労働者・作業者の安全を最大限の努力をしなければ、大きなしっぺ返しがきます。

index_arrow 安全配慮義務が高まったきっかけ

安全配慮義務については、「安衛法」ではなく「労働契約法」に規定されています。

【労働契約法】

(労働者の安全への配慮)
第5条
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を
確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする

使用者(事業者)は、労働者の生命、身体等の安全を確保して労働させるよう配慮しなければなりません。

事業者は、売上を上げることが使命です。
そして働く人たちの生命を守ることも大事な義務です。

ブラック企業など、過酷な長時間労働を強いることは、完全にこの条文に違反しています。 そのため、安全配慮義務違反として摘発される会社は、過労死のケースが多く見受けられます。

安全配慮義務という考え方は、高度経済成長期にはありませんでした。 この30年くらいで言われるようになってきたことです。

きっかけは、とある事件で最高裁が下した判決でした。

「自衛隊八戸車両整備工場損害賠償事件(最高裁昭和50年2月25日第三小法廷判決。最高裁判所民事判例集29巻2号143頁)」

この事件は、自衛隊員が自衛隊の車両整備工場で、同僚が運転していた自動車にひかれて死亡したものです。

自衛隊員は国家公務員だったので、遺族は国を訴えました。最高裁にまで争われましたが、最終的に最高裁は国にも責任がある判断したのです。

これが判例となり、労働者を使用する者の責任が問われるようになったのです。

index_arrow 労災事故を起こすと事業者と監督者が責任を問われる

安全配慮義務は、労働者が事故にあわないように、最善を尽くしていなかったことに責任が問われます。

人を雇い、仕事をさせることは、とても重いことなのです。

事業者の送検理由は、安全配慮義務違反だけではありません。
事故があった場合、安衛法も違反していることになるからです。

確実に違反するのは、この2条です。

【安衛法】

(事業者等の責務)
第3条
事業者は、単にこの法律で定める労働災害の防止のための
最低基準を守るだけでなく、快適な職場環境の実現と
労働条件の改善を通じて職場における労働者の安全と
健康を確保するようにしなければならない。
また、事業者は、国が実施する労働災害の防止に関する
施策に協力するようにしなければならない。

2 機械、器具その他の設備を設計し、製造し、
  若しくは輸入する者、原材料を製造し、
  若しくは輸入する者又は建設物を建設し、
  若しくは設計する者は、これらの物の設計、製造、輸入
  又は建設に際して、これらの物が使用されることによる
  労働災害の発生の防止に資するように努めなければならない。

3 建設工事の注文者等仕事を他人に請け負わせる者は、
  施工方法、工期等について、安全で衛生的な作業の
  遂行をそこなうおそれのある条件を附さないように
  配慮しなければならない。
第4条
労働者は、労働災害を防止するため必要な事項を守るほか、
事業者その他の関係者が実施する労働災害の防止に関する
措置に協力するように努めなければならない。

事業者の責務は、労働災害を防止するために措置することとあります。
労働災害を起こしたしまったことが、事業者の責任になるのです。

最近でも事故を起こしてしまったために、送検された事例があります。

以下、事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。

<土砂崩れ事故>作業員5人死亡の建設会社を書類送検(平成27年7月8日)

秋田県由利本荘市で2013年11月、市道工事の作業員5人が死亡した土砂崩れ事故で、本荘労基署は8日、5人が勤務していた同市の建設会社と、工事長、副工事長の男性2人を労働安全衛生法違反容疑で書類送検した。

送検容疑は、事前の地質調査や雨水等の排水作業を行わず、安全策を講じなかったとしている。事故は13年11月21日、破損した市道の復旧現場で土砂崩れが発生し、作業員が巻き込まれた。県警は業務上過失致死容疑で捜査を続けている。

毎日新聞(記事リンク切)

この事故は、事例としても取り上げていますので、原因の推測や対策の検討は、こちらをご覧ください。

秋田県由利本荘土砂崩れ事故 5人全員死亡

これは、雨でぬかるんだ斜面が土砂崩れを起こし、作業者が巻き込まれ、亡くなった事故です。 きちんと作業前に、事前調査や排水を行わず、安全対策が十分でなかったため、会社と工事責任者が送検されました。

もし工事責任者がその場におらず、作業者が勝手にやっていたとしても、責任は免れません。 その場にいなかったことが問題ですし、勝手にやらせたことが問題なのです。

知らなかったではすまないんですね。

この事故は、次の条文にも違反となります。

第21条
事業者は、掘削、採石、荷役、伐木等の業務における作業方法から生ずる 危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。

2 事業者は、労働者が墜落するおそれのある場所、土砂等が   崩壊するおそれのある場所等に係る危険を防止するため必要な   措置を講じなければならない。

土木工事で事故が起こると、この条文にもひっかかります。 また安衛則でも、作業前の点検などが定められているので、それらにも抵触します。

さらに、もう1件紹介します。

建物解体現場で作業員感電死 建設会社を書類送検(平成27年3月5日)

和歌山県海南市の建物解体工事現場で昨年9月、男性作業員が感電死する労災事故があり、和歌山労働基準監督署は5日、労働安全衛生法違反の疑いで、法人としての元請け建設会社と、男性現場監督ら3人を書類送検した。

労基署によると、作業員は昨年9月28日、高さ約7メートルの足場で作業中、持っていた鉄パイプが頭上の電線に接触し感電した。送検容疑は、電線にカバーをする感電防止措置を怠るなどした疑い。現場監督は「電線があることは知っていたが、防止措置をしていなかった」と容疑を認めている。

作業員は海南市の下請け業者に雇われていた。

産経新聞(リンク切)

こちらは建物の解体作業中に、電線に接触し、感電死したという事故です。 この事故の被災者は、下請け会社の作業者でしたが、送検されたのは元請け会社と、元請け会社の現場責任者です。

電線付近で作業させるのに、感電防止策をとっていなかったというものです。 もしかしたら、元請け会社や現場責任者は、下請けに丸投げしていたのかもしれません。

しかし、丸投げしたことが問題なのです。 下請けが勝手にやったことなど、通用しません。

この事故は、次の条文に抵触します。

第20条
事業者は、次の危険を防止するため必要な措置を講じなければならない。   1)機械、器具その他の設備(以下「機械等」という。)による危険

  2)爆発性の物、発火性の物、引火性の物等による危険

  3)電気、熱その他のエネルギーによる危険

第24条
事業者は、労働者の作業行動から生ずる労働災害を防止するため 必要な措置を講じなければならない。

感電については、安衛則にもあるので、それらの条文にも抵触します。

事故対策について、事業者が知らないということは、非常にリスクが高いと言えるのではないでしょうか。

事故があったら、自分たちも責任が問われるのですから、現場任せ、労働者任せにしていいものではないと分かるはず。

いかに事故を減らすかは、労働者を守るためだけでなく、ひいては自分たちも守ることになります。

安全配慮義務は、事業者がしっかりと捉えなければならない責任です。

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