今日も無事にただいま

「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

事故の体験を話すということ

      2015/08/14

entry-369

Twitterで、こんな記事が流れてきました。 イギリスの記事ですが、内容は事故の体験を話し、分かち合うことの重要性を書いたものです。

「Workplace accident victim who shares his experiences named RoSPA Archangel」 industrytoday

なんでも、RoSpa(Royal Society for the Prevention of Accidents:王立事故防止団体) という組織があり、そこでは貴重な事故体験を語り、分かち合う人を「アークエンジェル(大天使)」として表彰しているとのことです。

事故体験を語り、分かち合う人がなぜ表彰されるのでしょうか? なぜ価値のあることとされているのでしょうか?

それには、事故の当事者だけが、伝える迫力が、事故抑止力になるからではないでしょうか。

index_arrow 身近な出来事と遠い出来事

毎日のように、事故のニュースが流れています。

この記事を書いている時に、最も頻繁に報道されている事故は、平成27年7月26日に発生した調布市の小型飛行機落下事故です。
操縦士や乗員だけでなく、落下した先の民家の住民も亡くなられました。 事故の原因についても、後追いで検証されています。

この事故は、非常に痛ましいものであることには違いありません。
一方で、メディアを通して受け取っていると、痛ましいと思うけれども、遠い出来事のように感じませんでしょうか?
上記の事故は飛行場近くの住宅地で起きました。
では、近くに飛行場がない人は、この事故で何か人生観が変わるでしょうか。

悲惨な事故もニュースであり、我が事として捉えるのは難しいのではと思います。 もし毎日数えきれないほどの事故を、我が身に起きたこととして捉えていると、心も体ももちません。

これは同情心が薄いとか、冷たいとかの話ではありません。 ただ、身近でないから、入り込まないというだけです。

年間約5000人の交通事故で亡くなられています。 労災事故で約1000人の方が亡くなられています。 とても多いと思うでしょうが、それは数字でしかありません。 この数字は、自らの行動を変える動機になることは、まずないでしょう。

一方で、身近な人に起こった出来事は、どのような影響を与えるでしょうか? 例えば、親しい人が交通事故を起こした場合、会社の同僚が仕事中に大怪我をした場合、何を思うでしょうか。

顔を知っている人、身近な人、さらには自分自身に起こった出来事は、どんなデータでも及ぶことがないほど、生々しく身に降りかかります。 友人がスピード違反で捕まったと聞いたら、自分はスピードを出し過ぎないようにしたという経験はあるのではないでしょうか。

事故以外にも、会社内や友達の間で流行っていることは、感化されやすいですよね。 一部の友人があるアプリゲームにハマったら、みんな始めたり。

顔の見える、身近な出来事の影響力は強いのです。

影響力には、顔が見え、身近に感じられるということが大きな要素になります。 スティーブ・ジョブズは影響力は絶大ですが、それよりも会社の先輩から影響を受け、学ぶことの方が多いでしょう。

事故事例も、身近であるか否か、被災者の顔が見えるか否かで、受け取り方が異なります。

index_arrow 事故の体験を話し、分かち合うこと

事故の体験は、あまり思い出したくない経験かもしれません。 当時の痛みや苦しみを思い出すだけでなく、恥と思う人もいるでしょう。

しかし話すことができるということは、命は助かったということです。 報道されたり、大きく取り上げられる事故は、人が亡くなることが多いです。 亡くなられた方は、残念ながら何も話せません。

冒頭で紹介した記事では、天井の明窓から転落し、下半身が麻痺した人が、その事故体験を話しています。 目の前で車いすに乗った人が、自らの事を語るのです。 転落事故は死亡者が多いという統計より、はるかに生々しいものです。

この話を目の前で聞いた人は、きっと涙し、身を引き締めるでしょう。 そして自らが普段何気なく行っている作業に潜む危険性を、思い出すことでしょう。

ニュースで見るより、本で読むより、体験談は身に突き刺さります。

また話す人も勇気を持っている人と言えます。 事故は日々起こっていますが、その体験を分かち合う人は少ないです。

事故を起こすことは、とても辛いことですが、それを話し分かち合うことで、貴重な体験になります。
貴重というのは、次の事故抑止力になるという意味です。
これは、実際に体験した人にしか話すことができないものなのです。

沖縄に修学旅行に行った時、戦争の体験を聞きました。 実際に戦争を体験した人の話は、教科書や映像よりも生々しいものです。 戦争を知らない世代にも、悲惨な戦争を起こしたくないと思わせてくれます。

1人の方の身に起きた事故体験を話し分かち合うことは、それを耳にした人の事故を防ぎます。 体験談を聞くのは、効果のある安全教育になるのではないでしょうか。

しかし、無理に話させるのは厳禁です。
この貴重な体験は、話す人に苦痛を伴うこともあるので、とてもデリケートに扱わなければなりません。

iQiPlus

 - ○コラム