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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

鼠川、落ちし鉄筋で安全靴をガコンする

      2015/08/29

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow第47話「鼠川、落ちし鉄筋で安全靴をガコンする」

猫井川はようやく羊井の現場の塗装工事から開放されました。
今日は数日ぶりに、屋内作業から屋外作業になります。

コンクリート工事に向けて、鼠川と鉄筋を組み立てることになったのでした。
炎天下の中ですが、猫井川は屋内より屋外のほうが、性に合っているのでした。

「今日も暑いですね。」

作業前から額に汗の玉を浮かべ、猫井川が言います。

「ああ、年寄りにはこたえる。  今年はいつもより暑い気がするな。」

幾度となく夏を経験してきた鼠川も、暑さにうなだれています。

「なんか、そういう台詞は毎年言ってる気がしますね。」

猫井川がそんな軽口を言うと、

「若造が分かったふうなことを言いよって。
 でもな、ワシが若いころに比べたら、暑い気がするぞ。
 昔は、作業中に水を飲んだりしなかったもんだが、今は違うからな。」

鼠川がしみじみ言うのでした。

「同じようなことを兎耳長さんも言ってましたよ。
 昔は、部活の時も水を飲むなとか言われてたみたいですね。
 さすがに、今はそんなことはないでしょうけど。」

「そうだな。年寄りの言い分だと思うが、昔はそれが当たり前だったんだ。
 ワシももっと暑さに強いと思っていたんだが、ここ数年はダメだ。」

「ほんと、熱中症には注意しないとですね。
 牛黒さんは、ものすごい汗をかいてましたよ。」

「まあ、あいつは昔からだ。
 途中で作業服を取り替えただろう?」

「よく知ってますね。お昼くらいに着替えてました。
 おれが休憩しませんかと言っても、必要ないとか言うんですよ。」

「それは牛黒の性格だな。
 変なところ見栄っ張りだから。
 でもすぐ見栄を引っ込めるだろう。」

「確かにそうでした。面白い人なんですけどね。」

そんな話をしながら、2人は鉄筋をパーツごとに並べていくことにしました。

「よし、とりあえず部品ごとまとめていってから、組み立てていこう。
 数はそんなに多くないから、時間はかからんだろう。
 暑くならん内にやってしまおうか。」

鼠川が作業の段取りを決めました。

「そうですね。
 でも、この暑さなので、休憩はこまめにとりましょう。
 犬尾沢さんも朝言ってましたし。」

「まあ、暑くなる前になるべく進めよう。」

そう言うと、2人はトラックに積まれた鉄筋を掴みました。

鉄筋を同じ寸法に加工されたもの同士をまとめ、地面に並べていきます。

トラックから全て下ろし終わったところで、長さや数を確認し、いよいよ組み立てていきます。 組立のために、並べた鉄筋を、所定の位置まで運んでいきます。

ここまで、2人は黙々と鉄筋を運んでいましたが、すでに汗だくになっていました。

「鼠川さん、大丈夫ですか?」

汗を拭いながら猫井川が聞きました。

「おう、ちょっと動いただけなのにな。
 とりあえず、この鉄筋を運び終えたら、一回休憩しようか。
 もう軍手の中が汗でいっぱいだ。」

「そうっすね。
 早いことやってしまいましょうか。」

そういうと、2人はまた鉄筋を運び始めたのでした。

鉄筋の組立図を元に、各パーツを並べていきます。 なるべく短時間で終わらせたい2人は、一度に何本もの鉄筋をまとめて持っていくのでした。

何往復かすると、すでに猫井川も鼠川も、服の色が変わるほど汗をかいています。

鼠川が2メートルくらいの長さの鉄筋を5本まとめて運んでいる時でした。 先ほど鼠川が言ったように、すでに軍手が汗で濡れています。
汗は軍手の表面まで染み出し、ヌルヌルと滑りやすくなっていたものですから、鉄筋の何本かが鼠川の手からツルリと落ちてしまいました。

あっという間もなく、鉄筋は鼠川の手を離れ、足元に落ちていきます。

ガコン。

乾いた落として鼠川も靴に直撃したのでした。
しかし鼠川の靴は安全靴なので、つま先は鉄板で覆われています。
靴に直撃しても、痛くはなかったのですが、鉄筋が跳ね返った方向には鼠川の脛があったのでした。

ゴン。

安全靴をクッションとし、多少勢いが弱まったとはいえ、弁慶の泣き所に鉄筋が直撃したのです。
その痛みは、耐えられるものではありませんでした。

手にした鉄筋を全て滑り落とし、鼠川はしゃがみ込み、脛を押えます。

「大丈夫ですか?」

あわてて猫井川が駆け寄ります。

「だ、大丈夫。怪我はない。大丈夫。」

うなりながら、鼠川は脛をさすっています。

「軍手がもうダメだな。汗で濡れて滑るわ。」

しばらく悶絶してから、回復すると鼠川は軍手を脱ぎながら、そう言いました。
汗で湿った軍手は、脱ぐのにも一苦労です。

「新しいの持ってきます。おれ、すべり止め付きのがあるんで、使ってください。」

そう言うと、猫井川は予備の軍手を取りに行きました。

「おお、すまんな。」

ようやく痛みから開放された鼠川は、ゆっくり立ち上がりながら、太陽を見上げ、そして落ちた鉄筋の束を見つめました。

「昔も今も、暑さは思いもよらぬこともやってしまうな。」

鼠川の脳裏には、何やら昔のことを思い出した様子なのでした。

index_arrowヒヤリ・ハットの補足と解説

今回は鉄筋を滑り落としてしまうヒヤリ・ハットです。
滑り落ち、跳ね返った鉄筋が脛にあたってしまったのですが、大きな怪我にならなかったということで、ヒヤリ・ハットとしています。

鼠川も普段であれば、こんなミスはなかったでしょうが、猛暑に当てられてしまったのでしょう。 軍手が滑るとなると、かなりの汗であったはずです。

炎天下だと、短時間で急速に体の水分が失われてしまうので、注意が必要です。 自分で思っている以上に、脱水しており、喉が渇いた時には、すでに全身からかなりの水分が失われているようです。

こまめにと言っても、人それぞれの間隔だよりになるので、ここは30分にコップ1杯というルール決めも大事ではないでしょうか。

さて、熱中症については、また別の機会に譲るとして、落下のヒヤリ・ハットです。

作業において、手で運ぶという行動は非常に多いです。 ハンマーやペンチ等の工具から、木材や鉄筋などの材料まで、大きいものから小さいものまで、あらゆるものを持ち運びます。

物を持ち運んでいる時に、落としてしまったということは、誰でも経験があるでしょう。 その時に、運悪く足の上に落としてしまって、痛い思いをしたことも、あるのではないでしょうか。

軽く小さなものであれば、少し痛いくらいですみます。 しかし、落とすものが重かったり、刃物だったりすると、危ないですよね。

建設業に限りませんが、作業場では足の上に落とすと、大怪我になる物も少なくありません。 足の上へ物が落ちた時に、怪我を防ぐため、つま先の部分に鉄板を仕込んだ安全靴というものがあります。

作業場では、安全靴を履くことが怪我防止に重要です。

鼠川も鉄筋を落としましたが、安全靴のお陰で、つま先が押しつぶされるという危険は避けられました。 ただ残念ながら、跳ね上がった鉄筋までガードできませんでしたが。

忙しい時や、暑い寒いの極端な環境下では、注意力は疎かになります。 気づかぬうちに危険に踏み込むことすらあります。

足元の保護のため、安全靴は必ず履きましょう。 また鉄筋を落としたきっかけは、軍手が滑ってしまったことですが、すべり止め付きの軍手を使うのも大事ですね。 そして、落とさないためには、一度に持つ量を加減することも重要です。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめましょう。

ヒヤリハット軍手が滑って、鉄筋を落とし、脛に当たった。
対策1.すべり止め付軍手を使用する。
2.材料は一度にたくさん持たない。

炎天下の作業は、どうしても頭がぼんやりして、普段起こさないような事故を招いてしまいます。 作業の手を止めてしまうので、非効率的に思うかもしれませんが、30分に1度程度小休止を入れたいところです。 これによって、安全に作業できますし、疲労も抑えられるので、かえって効率はよくなることも考えらます。

年配の方や、作業に慣れていない人がいる作業場では、休憩も指導しましょう。

さて、夏の太陽を見上げ、鼠川は何やら思い出したようですが、どんなことがあったのでしょうか。

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