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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

猫井川、釜場に足を踏み入れる

      2015/10/31

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こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。

index_arrow第58話「猫井川、釜場に足を踏み入れる 」
猫井川と牛黒が作業場を交換して、しばらくが経ちました。羊井たちの仕事は建築工事で、猫井川が普段行っている土木工事と共通するところは多いけれども、勝手が違うところもあります。

5階建てのビル工事で、最初の頃は新鮮な発見があったものの、そういったものも慣れていきました。
工事に慣れてきた頃、ビルの工事もコンクリート養生のため、しばらく現場作業がストップになる時がありました。その間猫井川は、別の建設作業現場に向かったのでした。

その現場は、水道施設の電気室の築造を行っていました。1階建ての鉄筋コンクリート製で、大きさは3メートル四方です。
5階建てに比べると、随分小さいですが、その小ささが猫井川には新鮮に感じたのでした。

「基礎がこれくらいって、ものすごく小さいですね。」

素直にそんな感想が出てきます。

「おう、こんなもんだよ。」

羊井が答えます。

「基礎の中に埋めているのは、土ですか?建物に土入れるんですか?」

「そうだよ。土間は土で埋め戻しだからな。この上に土間コンを流すんだよ。」

「へー、今まで床は全部コンクリートかと思っていました。土で埋め戻すんですね。」

「知らなかったのか?」

「ええ。初めて知りました。  ところで、1箇所穴が開いてるんですけど、何ですか?」

「ああ、あれは釜場だよ。基礎の中はコンクリートで囲まれてて、中に水が溜まっても、どこにも逃げ場がないだろ。だからポンプで排水するんだが、そのポンプを入れる釜場だ。水が溜まったままで、土間コンの蓋は出来ないからな。」

「なるほど。土木でも床付面の排水で、1箇所深く掘って水が集まるようにしますね。同じなんですね。」

「まあ、そうだな。こっちの方が深いから、中で作業するとは、はまらないように気をつけろよ。
 今日は壁の鉄筋組立をやっていくから、お前は鉄筋屋の手伝いをしてくれ。
 俺は別の現場に行くから、頼むな。」

猫井川は作業場と作業内容の説明を受け、1人残されたのでした。

壁の鉄筋組立は、鉄筋屋さんが仕切り進めていきます。
鉄筋の加工や建て方は、鉄筋屋さんが進めていき、猫井川は鉄筋を運んだりしていました。

「そこのD10の束を持ってきて。」
「鉄線の予備持ってきて。」

猫井川はせっせと運ぶのでした。

壁の鉄筋がグルっと囲うように立った時、鉄筋屋さんが猫井川に言いました。

「猫井川さん、ちょっと部屋の中に入って、内側から支えてくれない。」

そう言われ、鉄格子で囲われたような室内に足を踏み入れました。
敷き詰められた土の感触が足を伝います。

「これでいいですか?」

猫井川が、鉄筋を支えながら聞きます。

「うん。上でくくるから、ちょっと真っ直ぐにしてて。」

そのようにして次々と鉄筋を支えては、鉄線でくくるを繰り返していきました。

「じゃあ、猫井川さん、スペーサーをつけて行ってくれる。スペーサーは、外にあるから。」

スペーサーは、鉄筋同士や鉄筋と型枠とのあいだのかぶり、つまり隙間をとるためのものです。
プラスティック製で円形のスペーサーを鉄筋にはめ込んで使うのですが、これも猫井川が建築の仕事を手伝うようになって、知ったものなのでした。

「外のどこです?」

「入口のとこにある、土のう袋に入ってるの。それ使って。」

外に出て足元を見ると、土のう袋が転がっています。中を見てみると、スペーサーがたくさんはいっていたのでした。

「適当な間隔でいいから、はめていって。」

鉄筋屋さんは、猫井川にそう支持しました。

「オッケー。後で位置は調整してください。」

そういいながら、土のう袋からスペーサーを取り出し、はめていきました。

次々にスペーサーをはめ込んでいった時でした。
少し取付間隔のバランスを見てみようと、1歩2歩後ずさりをした時、猫井川の体は急に沈み込みました。

ズボン。

なんとも奇妙な湿っぽい音が聞こえてきます。

なんと、さっき羊井に注意しろよと言われたばかりの、釜場に片足を突っ込んでしまったのでした。
突っ込んだ足元は、生暖かな湿り気を感じます。
釜場の底は、水が溜まっていたのでした。

「猫井川さん、大丈夫?」

鉄筋屋さんが聞きます。

「だ、大丈夫。足を突っ込んだだけ。
 うへ~、濡れてる。」

「釜場に行っちゃったか。覆いつけとかないと危ないよ。」

「全くです。」

足を引き上げて、見てみると、靴はもとよりすねの当たりまで、べっとりと泥水が付いているのでした。

「気持ち悪い。ちょっと洗ってきます。」

そう言うと、猫井川は濡れた片足を、さらに濡らすべく、水場に向かったのでした。

「猫井川さん、覆いになりそうな板とか持ってきて。」

背後から鉄筋屋さんの声がします。

その声に返事しながら、早く言ってよ~と嘆く猫井川なのでした。
index_arrowヒヤリ・ハットの補足と解説

このヒヤリ・ハットは、先日私がやってしまったものです。
私が受け持っている現場でも、1階建ての鉄筋コンクリートの建築工事をやっていて、土間を砂で埋戻し、1部に釜場を作っていました。

壁と屋根のコンクリートの型枠が外れ、室内を見ていた時でした。
入口から1人の作業者が入ってきたので、場所を開けようと後ろに後ずさった時、釜場に足を突っ込んでしまいました。

猫井川と同じく、靴と裾が濡れてしまったのでした。

ちょっとした落とし穴に落ちた気分でした。
高さが30センチ程度だったので、怪我などはありませんでしたが、これがもっと深い穴だったら、大怪我になっても不思議ではありませんよね。

私が落ちた後は、釜場の上に板を敷き、上を歩いてもはまらないようにしました。

穴があると分かっていても、とっさの時には忘れてしまいます。
釜場の穴以外にも、同じような状況はあるのではないでしょうか。

それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。

ヒヤリハット建築工事で、土間埋め戻しで排水用の釜場に足を突っ込む。
対策1.穴の上に覆いをかぶせる。
2.カラーコーンなどで、穴の位置がはっきりわかるようにする。

分かっていても、危険にはまることはあります。
作業現場では、ちょっとした隙間や穴が、事故の元になります。穴や隙間は埋めるか、それが難しい場合は、はっきりと注意をうながすのが大事ですね。

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