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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

安全管理怠り書類送検=乳頭温泉3人死亡、元市職員ら(秋田県仙北市)

      2015/12/07

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寒くるなると温泉が恋しくなります。日本にはそんな思いに応えてくれる、温泉地が数多くあります。

温泉は地下水が地熱で温められて湧いてくるのですが、湧き出るのはお湯だけではありません。地中のガスも噴出します。温泉地では、よく卵の腐ったような、いわゆる硫黄臭さを漂わせていたりします。少々臭うくらいなら旅情を感じさせるでしょうが、人体に良いかというと、そんなことはありません。
有害なガスもあるのです。いわゆる硫黄臭さの原因は、硫化水素というガスです。この硫化水素が一定の濃度以上になると、命に関わるのです。

温泉の管理では、このガスの対策を忘れてはいけません。

秋田県の乳頭温泉は有名な温泉地ですが、管理作業中に有毒ガスにより3人が亡くなる事故がありました。
この事故は、その後安全管理に不備があったとして、書類送検になりました。

今回は、この事故の原因を推測し、対策を検討します。

index_arrow事故の概要

事故の概要について、新聞記事を引用します。 なお、紹介したいのは事件そのものですので、被害者名などは割愛しておりますので、ご了承下さい。 引用の下に、元記事へのリンクを張っております。 安全管理怠り書類送検=乳頭温泉3人死亡、元市職員ら-労基署(平成27年11月19日)

秋田県仙北市の乳頭温泉で3月、施設を点検していた作業員ら3人が死亡した事故で、大曲労働基準監督署は19日、労働安全衛生法違反容疑で、市と市企業局元職員の男性(60)を書類送検した。

送検容疑は、硫化水素ガスのある場所で作業を行うのに、ガスの有害性や避難などについて教育しなかったほか、防毒マスクなどを人数分備えず、健康障害を防止する措置を取らなかった疑い。

事故は3月18日に発生。源泉から温泉水を流す管を点検していた作業員2人と市職員1人が硫化水素中毒で死亡した。 送検された元職員は当時、3人の安全を管理する立場にあった。県警は10月、この元職員を業務上過失致死容疑で書類送検している。

この事故の型は「有害物との接触」で、起因物は「硫化水素」です。

事故は源泉から温泉水を流す管の点検中に、起こりました。 源泉は地中から湯とともにガスが噴出しています。このガスは硫化水素です。硫化水素は猛毒です。ほんの少し吸い込むだけでも、命を落とします。

そのような場所で作業させるのに、作業者に十分な安全教育をしておらず、防毒マスクといった保護具を十分に備えていなかったため、今回の書類送検になったのです。

ガスの濃度は刻一刻変わります。噴出量や風向き、気温などにより、防毒マスクなしでも作業できる日があるのでしょう。しかしいつ状況が変わるかはわかりません。

そういった意味で、不十分な安全対策だったのだといえそうです。

それでは、原因を推測していきます。

index_arrow事故原因の推測

3人が亡くなった原因は、硫化水素による中毒です。
硫化水素が危険となる基準濃度は10ppm、つまり空気中に100万分の10という、ほんのわずかな量です。これほどまでわずかでも、命を奪いかねません。

源泉は、地中からガスが噴出している場所です。常日頃ではないかもしれませんが、硫化水素中毒の危険と隣り合わせであったことには違いありません。そして、管理していた市もそのことを知っていたはずです。

酸欠や硫化水素の濃度が高い場所での作業は、危険作業なので作業主任者を配置しなければなりません。そして作業主任者は、ガス濃度を測り、安全に作業するよう指揮します。もし濃度が濃くなれば、避難させることも作業主任者の責務です。

また防毒マスクは、硫化水素を吸い込まないようにするために必須の保護具です。これを備えていなかったのは、安全管理をおこたったと言われても仕方がないのかもしれません。

普段は、深刻な状況でなかったのでしょう。しかし自然は気まぐれですし、ガスの濃度も一定ではありません。最悪の状況を想定して、安全管理することが、求められるのです。

それでは、原因を推測をまとめてみます。

安全に作業する作業手順書、計画がなかったこと。
保護具を揃えていなかったこと。
安全教育を行っていなかったこと。

それでは、対策を検討します。

index_arrow対策の検討

有毒ガスによる危険がある場所とわかっていたならば、それに対する安全管理が必要です。

まず、酸素欠乏・硫化水素危険作業主任者を配置することや、作業に当たる職員も第2種酸素欠乏危険作業の特別教育を受けておくのが望ましいです。

作業にあたっては、作業前に硫化水素の濃度を測定し、濃度が10ppmを超えているなら、作業しないもしくは換気するなどで濃度を下げる必要があります。
濃度測定は、作業中も測定し、急に濃度が上がった場合の対処も決めておきます。

作業手順はそういった測定や避難についても、取り決めておく必要があります。

作業手順を定めるだけでは不十分なので、作業者がきちんと実行できるよう教育も必要です。

保護具は必ず人数分用意しましょう。少なくとも現場で作業する人分は準備しましょう。防毒マスクはピタッと顔に隙間がないようにしなければなりません。使い方を誤ると効果がなくなるのです。そのため、安全教育には保護具の使い方やガス測定器の使い方も教える必要があります。

十分な準備と、作業時の安全確保を行うと防げる事故だったと思います。
多分大丈夫だろうと思っていると、急に恐るべきことが起こるのです。

対策をまとめてみます。

有資格者に作業をさせる。
作業計画を定め、安全教育を行う。
保護具や測定器を備え、使い方も教える。

温泉管理をしているところは日本各地にあります。 どこでも、今回の事故のようなことは起こり得ます。こういった事故は自分のところでも起こりかねないと振り返り、保護具や安全教育などの見直しをすると、今後の事故防止になりますね。

index_arrow違反している法律

この事故で、関係する法律は、おそらく次の条文です。

【酸素欠乏症等防止規則】

第5条
酸欠等の危険作業では、酸素濃度18パーセント以上、硫化水素濃度100万分の10以下となるよう換気しなければならない。
第5条の2
酸欠等の危険作業では、送気マスクなどの保護具を着用させなければならない。

れらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。
酸欠作業 その2。 酸欠作業時の安全対策

第14条
酸欠等の危険場所では、危険が生じた場合、速やかに退避させなければならない。
第15条
酸欠等の危険場所では、避難するための器具を備えなければならない。


これらについて、解説している記事は、こちらですので、あわせて参考にしてください。
 酸欠作業 その4。 作業時の監視と避難の体制づくり。

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