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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

事故や安全について、責任の置き所はどこか

      2016/01/11

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今となってはかなり昔の話になりますが、こんな言葉がありました。
年配の方であれば、聞いたことがあるのではないでしょうか?

「怪我と弁当は自分持ち」

これは、仕事で怪我をしても、自己責任なので、会社に迷惑はかけない的な意味でしょうか。
今ほど会社としての責任やコンプライアンスが曖昧だった時代の言い分ともいます。
50代以上の方であれば、若い時にそれが当たり前だったという人も少なくないでしょうね。

このような言葉ある背景は、安全意識がまだまだ未熟だったということがあります。
現在は年間労災で亡くなる方は、約1000人になります。安衛法が成立した昭和50年代では、年間約5000人以上の方が、労災で命を落としていたのです。怪我をした人ともなると、この100倍以上、50万人くらいになっていました。

とんでもない数の死傷者数ではないですよね。
これは何も明治や戦前の話ではありません。ほんの数十年前の話です。
当時の状況をしる人で、まだまだ現役の人もたくさんいます。

以前も似たような記事を書いたことがあるような気もするのですが、改めて書こうと思ったのは、先日会社でこんなやり取りがあったからです。

1人の社員がこのようなこと口にしました。

「もし怪我しても、会社に迷惑かけないようにする。労災も使わないようにしたい。」

いやいや、それは違うと。仕事の時に怪我をしたら、きちんと労災を使って、治療してくれないとダメ。それは会社を思いじゃないと。
それにもし業務中の怪我で労災を使わなかったら、結果的に労災隠しになるし、むしろ会社としては迷惑をこうむると。

その社員は60代で、以前は自分で会社をやっていた時期もあった方です。良し悪しはともかく経営していた経験から、そのような発想になったのだと思います。

この時も、コンコンと話をしたのですが、一応言っていることは理解してもらえたものの、また話をする機会もあるかもしれません。
どうしても一旦身につけたものは、上書きするのは難しいようです。

それに、昔の現場でイケイケでやってきた人にとっては、最近の品質管理や安全管理で細かいことまで口出されるのは、窮屈を感じるのもあるのでしょう。
窮屈さには同意するものの、だからといって疎かにすることもできないのも確かです。何かと息苦しい世の中です。

確かに、昔と今は違うということはあります。
しかし、時代が違うから納得しろと切り捨てるのは、いかがなものかとも思うのです。

「弁当と事故は自分持ち」の時代と現在。
事故に対する考え方が、ゴロッと変わってしまったのですが、それは安全に対する考え方が変わったといえそうです。

index_arrow事故の責任は、事業者責任

「事故は自分持ち」と言う時、その主体は労働者です。それは作業者であり、会社の従業員です。会社や経営者、事業者というものではありません。
事故は自己責任であるということ、会社に迷惑をかけるのは恥であると考えがあったのかもしれません。また、怪我をしたところで、会社が何もしてくれないし、当てにできないというのもあったのでしょうけど。

ある種、自分の身は自分で守らねばならないという考え方とも言えます。

じゃあ、会社や事業者の責任は?というと、見えてきません。
労災保険などはあったでしょうが、中には使いたくないという会社もあったのではないでしょうか。
治療費を払うから、家で怪我したことにしてくれというところもあれば、怪我を理由に解雇というのもあったのではないでしょうか。

こういう風潮に対して、釘を刺したのが、安衛法です。
安衛法では、条文の出だしは「事業者は・・・」です。事業者とは経営者や会社のことです。つまり会社の責任で、労働者の事故や病気を防がなければならないとしているのです。

そして事故が起こってしまった時も、会社が主体となって対処に当たらなければならないとしているのです。

もし労働者が怪我をして、本人の判断で労災を使わないとしても、法的には会社が労災隠ししたと判断されるのです。
「怪我を自分持ち」にされてしまうと、管理不十分となるわけです。
あまりないでしょうけど、事故を起こしたのに、会社に何も言わないのは、会社思いの行動ではないのです。

昔なら、美談になったかもしれませんが、今となっては困ったことになりかねません。

怪我をしても労災を使わないことは、会社思いの行動にはなりません。
では、もし会社のことを思うのであれば、どうしたらいいのでしょうか。

それについては、はっきりとした答えがあります。

事故を起こさないこと。
怪我をしないこと。
病気にならないこと。
まとめて、労災事故を起こさないことです。

これに勝るものはありません。

事故が起こってしまったら、会社に報告し、会社に手続きを任せるのでいいです。
しかし、その事故自体が起こさないことが、何よりも大切です。

さらに、年配の労働者であれば、他の労働者の模範となり、事故防止に努めて欲しいです。

先の社員とは、こんな話をしたのでした。

ただ、これはまだ全ての会社で成り立つとは思いません。
中には、(特に中小に多いでしょうけど)、労災を使わせない方針を持った会社もあるでしょう。そういう会社にと勤めていたら、会社への信頼が薄く、事故を報告することもできないかもしれません。
会社主体で、労災隠しを行い、摘発されるケースもあります。

会社と労働者の関係が前提になりますが、労災は労災として処理しなければなりません。
そして、労働者は事故を起こさないこと、怪我をしないことに努めたいものです。

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