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移動式クレーン「落下」の事故事例

      2015/05/30

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移動式クレーンは特定機械として、製造から使用時、また定期的な性能検査が必要になります。
なぜこれほどまでに厳重に管理されるのか。

それは、事故が起こった時に大きな被害になりかねないからでしょう。
移動式クレーンは、数トンにもなる重量物を吊り上げ、任意の場所に持って行くことができます。

そんな身近な機械ではありますが、使われる頻度が高い分、事故も多くなります。
常に正しく使われるとも限りませんし、常に正常に稼働するとも限りません。
ほんの少しの油断が事故になり、時として大きな被害を生み出してしまうのです。

前回は移動式クレーンの転倒事故に引き続き、移動式クレーンの事故事例を紹介してみようと思います。
事故の中でも、物を吊り上げる仕事につきものといえる、落下事故を見ていきます。

参考にしたのは、厚生労働省の労働事故事例です。
労働事故事例

下水道工事の立坑からバケットを吊り上げ中、クレーンのワイヤロープを巻き過ぎてワイヤロープを切断

下水管を推進工法により敷設する工事において、積載形トラッククレーンで荷を吊り上げ移動する作業中、巻上げ用ワイヤロープが破断し、落下した荷が作業者に激突した事故です。

災害発生当日、下請に所属するクレーン運転者は、発進立坑内にヒューム管をトラッククレーンで吊り降ろす作業を行うために、積載形トラッククレーンのフックから立坑内の土砂排出に使用していたバケットを取り外して覆工板の上に仮置きする作業を行いました。

作業はクレーンの荷台上でブームを伸ばす操作をリモコンによって、吊り上げ行いました。
その操作の途中、リモコンスイッチを「入」(ブームを伸ばす状態)にしたまま、右後部タイヤを伝って地上に降りようとしてブームのところから目が離れたとき、巻上げ用ワイヤロープが過巻状態となって破断し、吊っていた排土用バケットとフックが落下しました。
落下した荷物は、立坑内にいた同じ会社の作業者の頭部を直撃し、作業者は亡くなりました。

このクレーンの巻過防止装置が故障していたため、過巻状態になってもクレーンの作動は停止せず、また、警報も鳴らない状態でした。


この事故の型は「飛来・落下」で、起因物は「移動式クレーン」になります。

ブームとは、クレーンの腕に当たる部分であり、伸縮したりする部分です。厳密にはジブやアームなどとも言われますが、この事例ではブームで統一します。このブームの先端からフック付きのワイヤーが伸び、荷物を吊るというわけです。

この事故では、推進用の縦穴から排土用のバケットを吊り上げている時に、ワイヤーが切れてしまった事故です。
ブームを伸ばすときには、その長さに合わせてワイヤーも出していかないと、ワイヤーが引っかかってしまいます。
引っかかったワイヤーがさらに引っ張られると、限界を超えた伸びになり、切れてしまいます。

正常に整備されたクレーンであれば、ワイヤーの破断を防ぐために巻過防止装置という安全装置があり、ブームに引っかかる前に、警報を出したり、機械を自動的にストップさせたりします。

この事故を起こした機械は、この巻過防止装置が正常に機能しませんでした。
この安全装置も検査の対象なのですが、定期的な検査を行わず、故障したままにしていたのか、意図的に稼働しないようにしていたのかはわかりませんが、安全装置の不稼働が事故の一因となりました。

またスイッチを「入」にしたままで、目を離し、ワイヤーや吊り荷の状態が確認できていなかったことも問題です。
さらにクレーンを使用する場合は、合図を統一し、合図者に合図させなければいけませんが、この事故の時には、合図者は不在でした。

以上のことを踏まえて、事故原因をまとめてみたいと思います。

1.巻過防止装置が、正常に稼働しない状態だった。(故障していた)
2.クレーン作業の合図者が指名されていなかった。
3.リモコン操作者が吊り荷から目を離していた。


これらの原因をふまえての、対策は次のように考えれます。

1.年次、月次の検査とともに、作業前の点検を行う。
2.元方事業者は、機械が持ち込まれた時点で、持込業者がクレーンの点検が行われているかを確認する。
3.合図者を指名し、統一した合図で、作業の合図を行う。
4.クレーン操作者は、合図者の指示に従うとともに、吊り荷の状態を常に確認する。


元請業者は、移動式クレーンを持ち込んだ会社が、クレーンを整備しているかを確認する必要があります。
この確認で、整備不良による事故の芽を積んでおくわけです。

特定機械は整備されていないと、事故になります。

機械の整備は必ず、確実に行いましょう。
安全装置の点検は、身の安全にために必要なことなのです。



もう一つ事例を紹介したいと思います。

ジブが折れ、つり荷が落下

ショッピングセンター屋上に設置されている看板の修理工事に起きた事故です。
看板の修理工事は、2階建てショッピングセンターのペントハウス屋上に設置された大型の看板(重量18トン)を地上に降ろし、塗装補修の後、再度元の位置に設置するものでした。

看板の脚部を切断するため、看板の四隅を4本のワイヤロープで玉掛けし、移動式クレーン(吊り上げ荷重60トン)でつり上げた状態にして、溶断しました。

この作業時の移動式クレーンの状態は、ジブの長さ37m、作業半径10mで、10トンまで吊れる状態でした。
しかし看板の脚部を溶断するにしたがって、荷重が徐々に増加し、完全に溶断される直前には過負荷防止装置が13トンを示し、完全に溶断された時には18トンになりました。

看板の脚部を完全に溶断したとき、突風でつり荷の看板が左に流され始めたため、ジブを左に旋回させたところ、揺れを防止するため看板に取り付けてあったロープがペントハウスに引っ掛かり、右側に振らました。
その時、ジブが4段目の根元から右側に折れ、看板が建物のひさしおよび移動式クレーンの走行用運転席の上に落下し、下敷きになった運転手が死亡しました。


この事故の型は「飛来・落下」で、起因物は「移動式クレーン」です。

事故の直接的な原因は、10トンまでしか吊れない状態にも関わらず、最終的に18トンもの荷重をかけたことです。
吊れる限界の重量のことを、定格荷重といいます。この定格荷重以上に重量がかかることを、過負荷といいます。
過負荷状態に加え、荷物が触れてしまったことにより、ジブ(ブーム、アーム)が折れてしまい、事故になってしまいました。先の事例ではジブをブームと言っていましたが、この事例については、本文に従いジブで統一します。

事故を起こしたクレーンが、正常に整備されていたならば、過負荷防止装置といいう安全装置が働き、警報が出ていたかと思いますが、作業は続行されていたようです。

クレーンは、腕が長く伸びれば伸びるほど、つまり遠くのものを吊ろうとすると、吊り荷重は小さくなります。
これは買い物を行った場合など、重い荷物を持つことを考えてみるとわかりやすいかもしれません。
重いものを持つとき、腕をぴーんと伸ばして持ったりしませんよね。なるべく体の側で持ちますよね。
重いダンボールなども、体にくっつけて持ちますよね。決して賞状をもらうように手を突き出したような状態では持ちませんよね。
クレーンも同じなんです。車体の近く、つまりジブが最短の状態が最も重いものを吊れますし、最長の状態では重いものは吊れないのです。
この看板の吊り作業は、ジブがかなり伸びた状態でした。そのため60トンまで吊れるクレーンでも、10トンまでしか吊れない状態だったです。

おそらく看板が完全に溶断されたときでも、過負荷でいっぱいいっぱいだったと思います。
そんな状態なのに、間の悪いことに突風が吹き、さらに荷重がかかってしまったことが事故になってしまいました。
高く吊った重量物が落ちてくるのですから、クレーン事故の恐ろしさは想像できますよね。

さて、以上のことを踏まえて、事故の原因をまとめたいと思います。

1.過負荷警報を無視した。
2.吊り荷の重量と機械の選定を誤った。
3.面積が広く風の影響を受けるものを吊るのに、風の状態を確認していなかった。


ジブの伸ばす範囲で、定格荷重は違ってくるのですから、事前に吊り荷の重さにあったクレーンの選定が必要になります。
今回であれば、ジブを伸ばした状態でも20トンは吊れるクレーンの配置が求められたと思います。
これは作業を開始してからはどうしようもありません。
足を半分切ってしまって過負荷になったから、一旦中断というわけには行かなかったと思います。
事前の調査と機械の選定が重要になのです。

またこの事故の要因にのもなった、風の状態確認も重要ですね。
風が強い時にクレーン作業は、原則としてやってはいけません。
理由は分かりますよね。荷物が振られて、危ないからです。
特に看板のように風を受ける面積が大きい物は、ちょっとした風でも振られますので、注意が必要になります。

これらの原因をふまえての、対策は次のように考えれます。

1.吊り荷の事前調査と、機械の配置位置を検討し、十分な能力を持つクレーンを選定する。
2.過負荷警報が出た時に、作業方法を検討し直す。
3.風の影響を受けやすいものは、風の状態を確認して作業する。


過負荷防止装置、巻過防止装置は、移動式や固定式ともに重要な安全装置です。
これらの安全装置が正常に動き、警報が出たら、対処するというのが、クレーンの安全作業の原則になります。


事故事例などを見ていると、過負荷防止装置を無視する、または警報がうるさいから取り外してしまうというケースが見受けられます。
事故を起こすまで、安全装置はちょっと重いものを吊ったらピーピー鳴る、ただ五月蝿いだけの機能だったのかもしれません。しかしそれは事故を起こさないための機能なのです。

移動式クレーンは年次の性能検査を受けなければなりません。これは通常であれば、専門の業者に行ってもらうものです。車で言うところの、車検をディーラーや整備業者にお願いするようなものです。
安全装置の状態は、ここでチェックされます。
また、年次以外にも、月次点検と作業前点検が義務付けられています。

故障した状態で使っていたということは、これらの検査や点検を行っていなかったのかもしれません。
今回した事故事例を見ればわかると思いますが、移動式クレーンでの事故では大きな被害になりかねません。

機械の事故を防ぐために大切なことが2つあります。

1つは、故障や不備がない、正常な状態で使用すること。
もう1つは、正しく使用すること。

事故の原因がこれだけではありません。
しかし、この2つをクリアすると、相当の事故を予防できるのではないでしょうか。

移動式クレーンは、建設現場であれば、ほぼ全ての現場で活躍します。
私の会社でも、ほぼ全ての現場で使用します。
だから、これらの事故は我が事でもあるのです。

活躍する機会が多い機械だからこそ、気を引き締め、事故を防げたらと思います。

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