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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

「安全帯で宙吊り~救助までの延命措置」より、安全帯の盲点。

   

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「安全帯で宙づり 救助までの延命措置 」
菊一 功 著  労働新聞社 2015/7/29

日本では高所作業における安全について、墜落して安全帯で宙づりになった場合の救出方法(延命措置)を現場で全く教育していません。
また、足場の組立て、解体等の作業では、足場の組立て等作業主任者や作業指揮者の直接作業指揮が徹底されていません。本書は、こういった墜落災害の防止の本質、ハーネスについての諸問題、宙づりとなった場合に現場で簡単にできる延命措置等を解説します。墜落による重篤災害防止のための1冊です。

人にはそれぞれ関心事があって、ある人が興味があることでも、別の人にとっては興味がそそられません。

私にとっては、それは労働安全に関することは興味があります。しかしこの分野はかなりマイナーな方でしょう。
きっとIT系やサブカルチャー系の方が関心を持つ人が多いはず。

このブログはマイナーな話題だけを扱い続けていることに、差別化とこだわりがあるのですけども。
一方では、安全以外の話題が書けないという制限がきついのはあるのですけど、無理やりこじつけることが時々あったりしますが。

さて安全に関心があるので、安全に関わる本を読むことが多いです。
そんな中、先日買ったのがこの本です。

「安全帯で宙吊り~救助までの延命措置」

この本は面白かったです。安全関係で面白いというのは変かもしれませんが、興味深かったです。

安全帯は、高所作業では欠かさません。
足場の手すりが無いとこでは、安全帯が文字通り最後の命綱と言っても過言ではありません。

安全帯を着けて高所作業している人は多いです。ほとんどの作業者は胴ベルトに安全帯のロープとフックを掛けています。
しかし着けているからといって、常に使われるとは限りません。

むしろ指導や監視が行き届いていなければ、ただのアクセサリーに成り果てているケースも少なくありません。
自分の現場では、全員がきちんと使用しているぞ!と仰る人がいれば、それは教育や指導を徹底されているからです。とても素晴らしい!

多くの墜落事故では、安全帯さえきちんと使っていたら、命までは落とさなかったかもというものも少なくないでしょう。
ほんの少しの時間だから、フックを掛けなくとも大丈夫だろう、フックの掛け替えが面倒だ、みんな使っていない、今まで危なかったことなど一度もないから大丈夫。

確かにほとんどの場合大丈夫です。しかし事故になるほんの1回が致命傷になるのも確かなのです。

さて、安全帯を着け、正しく使用していれば、地面への激突は免れます。
地面への激突が免れたから、一安心かというと、実はそうではないようなのです。

安全帯で墜落を免れたけれども、場合によっては命を落とすということもあるのだそうです。

index_arrow安全帯で命を落とす

胴ベルト型の安全帯の場合、体に装着する位置が適切でないと、体に強いダメージを受けてしまいます。
もしお腹に巻いていれば、内蔵がやられてしまいます。

また、腰より低い位置、例えば足元ににフックを掛けていると、落下距離が長なり、その分強い衝撃を体に受けてしまいます。

正しい位置に装着し、腰よりも高い位置にフックを掛けなければ、本来の機能が発揮されません。

まずはこれが前提。

これらの条件をクリアし、墜落時に安全帯がうまく機能したとします。

ひとまず地面に激突することは免れました。
その時、胴ベルトの安全帯に吊られた状態です。

この状態で救助を待つことになるのですが、ここが盲点だったのです。

墜落して救助されるまで、どれくらいかかるでしょうか?
119に連絡して、救助が来るまでどれくらいの時間がかかるでしょうか。

5分、10分、街から離れた場所だともっとかかるかもしれません。

宙吊りの状態のまま救助を待つ間、この時間が命取りになることもあるのだそうです。

しかも宙吊りの状態で、わずか10分で意識を失います。
事故のケースでは、宙吊りになり30分後に救助されたものの、亡くなってしまったというものがあるそうです。

安全帯で墜落を免れたからといって万事OKというわけではないのが現実です。

安全帯で宙吊りになった時はいち早く救助することが求められます。
救助の仕方は、足場などであれば上から引っ張り上げることになるでしょう。
この時1人で引っ張り上げるのは困難だそうです。体重が80キロの人を引っ張り上げには4人が必要だとか。
高所での救助なので、決して足元も安定していません。とても危険な救助活動になります。

救助できる足場がある場合は、力を合わせて助け出せるでしょうが、送電線の上などとても第3者が救助できない場合はどうしたらいいのでしょうか。
ただひたすら早く救助されることを願うしかないのでしょうか。

この本は、救助されるまでの延命措置について、多くの紙面を割いているのです。
上記まではほんのサワリにしか過ぎないのです。メインは延命措置です。

延命措置の詳細は、本書を見ていただきたいのですが、ポイントだけ。

墜落し安全帯で宙吊りになっている人自身ができる延命措置には、登山に使うような丈夫なロープを使う方法が紹介されています。

宙吊りの状態が続くとなぜ亡くなるのかというと、頭が下になった状態が続くからです。逆立ちの状態をキープすると、頭や顔に血がたまるのか、顔が真っ赤になったりしますね。その状態が続くと、意識を失い、命を落とすのです。

救助されるまで、何とか姿勢を変えて、頭が体の上にある状態を保つ。これが延命につながります。
吊り下げられているロープをつかんで姿勢を変えるのは困難です。
そこで別に上部なロープを使い姿勢を変えるのです。どんな使い方をするのかは、本書に譲ります。

使用するロープは理想は登山用の丈夫なものです。しかしない場合はトラロープなど使えるものを使います。強度は劣るでしょうが、ないよりはマシかと思います。

ロープを使って姿勢を変えればいい、と言うものの急にできるものではありません。
避難訓練と同じです。普段練習したり、リハーサルしているから、いざという時にできるのです。

そこでもう1つ、本書で取り入れられそうなもの。
それは体感学習です。

安全な状態で、実際に安全帯で宙吊りになってみるのです。
そしてどれほど苦しいかを体感しつつ、ロープを使った延命措置を学ぶのです。

体感学習は、本書以外でも紹介されており、作業者がただの知識だけでなく、身を以って理解するので学習効果の高い方法だと言えます。

設備を準備しなくてはならないので、導入にはややハードルは高いのですが、今後安全教育にはぜひ取り入れていきたいものです。

ではまとめます。
安全帯を使っていれば、地面への激突は免れるので、墜落死は防げます。
しかし救助に時間がかかれば、命を落とすこともあります。

宙吊りになったら、一刻も早く救助することが求められますが、場合によっては時間がかかることもあります。
そういった場合は、ロープを使った延命措置などでしのぐことを考えなければなりません。

最近取り沙汰されているハーネス型安全帯は、胴巻き型よりも長時間宙吊りに耐えられます。
また衝撃を受ける箇所も腰以外に分散するので、負担が軽くなります。

メリットが多いハーネス型ですが、デメリットもあります。
それは装着が面倒だということ。
作業する上で、この負担は軽視できません。

命を守る観点ではハーネス型はいいのですが、作業時の負担と折り合いをつけなければなりません。

安全帯は命を守るものですが、それだけで安心というわけではありません。

救助を待つ間に命を落とすかもしれないというのは、何とも盲点な話で、それを教えてくれたこの本は実に興味深いものでした。

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