兎耳長は打ち出された小枝にも、おののかない

こんなヒヤリハットがありましたので、対策とともにご紹介したいと思います。
 | 第98話「兎耳長は打ち出された小枝にも、おののかない」 |
猫井川たちが現場に本格的に入り、数日が経ちました。 しばらく仮設や準備工を行っていましたが、いよいよ本格的な作業の開始です。
最初の作業は、山裾の立ち木を一部伐採することからです。 伐採する木は30本ほど。 数はそんなに多くはありません。
手順としては、こんな感じです。 チェーンソーで立ち木を切る。 枝葉を払い、幹を掴むハサミを着けたショベルカーで運び、ダンプに載せて搬出する。
鉄板も山裾まで敷いているので、ぎりぎりまでダンプを近づけることが出来たのでした。
朝からショベルカーを運び込み、伐採作業の準備が出来ました。
猫井川と鼠川がチェーンソーで伐採作業を行う役割でした。 保楠田はショベルカーに乗り、ダンプの運転は兎耳長でした。
猫井川たちは保護具を身に着けると、チェーンソーを手にし、山林に入っていくのでした。
切り倒す方向などは鼠川が仕切ります。 鼠川は、
「伐採は本当によくやったもんだ。 定年後、請われて何度か森林組合の手伝いもしてたしな。」
というくらい伐採経験は豊富なのだそうです。
最初に切る木を決めると、周りの状況を確認し、切り倒す方向を定めます。
「よし、あっちの方向に倒すからな。」
猫井川に、方向を示すと、手順を確認しました。 そして鼠川自身は別の木に向かうのでした。
1人残された猫井川は早速、受け口を切る位置を決め、切断に入りました。
エンジンを掛けると、ウイーンとチェーンソーは唸りを上げました。 幹に刃を当てると、細かな木くずを吐き出し、歯は少しずつ木の中に沈んでいきます。
チェーンソーで2方向に切れ込みを入れ三角形受け口を作ると、次はその切り口と反対側に周り、垂直に切れ目を入れていきます。
「今から倒しますけど、いいでしか?」
猫井川が大きな声をあげます。 しかしやや離れたところで作業ている鼠川も、チェーンソーを使っているので、声が届きません。
そのため大きく手を振りアピールしながら、また声をあげると、今度は気づきました。
「なんだ?」
鼠川は大声で聞きます。
「今から倒しますから、避難してください。」
鼠川は指でOKサインを出すと、手を止め、猫井川の近くまで来ました。 倒れる位置とは反対側なので、巻き込まれる心配はありません。
「さ、見ててやるから、切ってみろ。」
鼠川が言うと、
「そんなにじっと見られていたら、プレッシャーになりますよ。」
と、やりづらそうに猫井川が切り始めました。
チェーンソーの刃は幹に垂直の切れ目を入れていきます。
徐々に刃が食い込んでいくと、木が徐々にグラグラしてきました。 ある程度切込みを入れたところで、チェーンソーを引抜くと、切れ込みにくさびを挿しこみ、打ち込んでいきました。
1回、2回とくさびを打ち込むと、木は徐々に傾き、倒れていったのでした。
枝が周りの木にズザザザをぶつかり、こすれあい、そして地面に落ちたのでした。 軽く1度2度跳ねると、斜面を滑り落ちることなく、留まりました。
ふぅ~と一息つくと、鼠川が、
「もっと真っ直ぐに切ったほうがいいな。 切れ込みを入れる位置も、あと5センチは下のほうがいい。」
と、細かいアドバイスしてきたのでした。
これを1本目として、2人は次々と切り倒していきます。 倒した木の枝葉を払うと、保楠田がダンプに積み込んでいくのでした。
作業自体は順調に進んでいるものの、1本切り倒すのは時間がかかります。 そしてダンプにある程度の本数を積みこむのも時間がかかります。
そのためダンプの運転手役の兎耳長は、暇を持て余していました。 運転席にずっといるのも疲れてきたので、車外に出て、作業の様子を見ていたのでした。
ちょうどその時、猫井川が切っていた木が倒れていました。
倒木の枝葉は、周りの木の枝葉とぶつかっていくうちに、1本が折れ、あらぬ方向に飛んで行ったのでした。
小枝が飛来する先には、兎耳長がいました。
猫井川たちが危ない!当たる!と思った時、
兎耳長は、飛んでくる枝を掴みとったのでした。 普段のゆったりした動きからは、想像がつかないような電光石火の右。
掴んだ枝を地面に放り投げると、またいつもの兎耳長の様子でした。
保楠田がショベルカーの窓から顔を出し、
「大丈夫ですか?」
と聞くと、兎耳長は、
「大丈夫、大丈夫。矢が飛んで来るのなんて、そう珍しくなかったからさ。」
と、平然としています。
「矢が・・・飛んでくる?珍しくない????」
3人の頭に????が駆け巡りました。
猫井川が鼠川の方を見ると、頭を左右に振っています。 どうやら、鼠川も兎耳長の経歴は不明のようです。
兎耳長はまた運転席に戻ると、作業は再開しました。
しばらく後、そんな兎耳長が運転するダンプは木を運びだしていったのでした。 |
 | ヒヤリ・ハットの補足と解説 |
今回の主人公は、兎耳長です。
兎耳長には、ボクシングや体操などの数々の特技があります。
しかし普段の仕事には活かされず、もっぱら危機回避の時に披露されています。
そして本人はその経歴を話すことはないため、みんなが謎を抱えたままになっているのでした。
さて今回は、そんな兎耳長の特技が披露された伐採です。
伐採とは、木を切ることです。
木はチェーンソーなどで切りますが、倒木の下敷きなどの危険を伴う作業です。
切り倒す際には、周囲の確認が大状況です。
倒木する方向はもちろん、今回のように枝葉が飛んで行く範囲も人が入らないようにしなければなりません。
伐採作業をしている人、周りの人がお互いに退避を確認してからでないと危険ですね。
決して兎耳長のようなことができるわけではありません。
それでは、ヒヤリ・ハットをまとめます。
ヒヤリハット | 伐採して、木が倒れる時、枝が人がいる方向に飛んでいった。 |
対策 | 1.倒木時は、退避する。 2.倒れる方向には人を立たせない。 |
伐採が終わると、次は掘削作業です。
今回は斜面の一部を削り、建物の基礎を作っていきます。
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○ショートストーリー”猫井川ニャンのHH白書” ヒヤリ・ハット, 飛来・落下