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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

安全の原則は事前防止。そのためには「止まる」ことが大事

   

先日、兵庫ゼロ災・リスクアセスメント推進大会に参加した話を書いたのですが、今回はその続きです。

前回 → 全国安全週間ということで、県の安全大会に参加しました。

メインは、特別講演をされたNPO安全工学研究所理事長をされている杉本旭先生の講演について、感じたことなどです。

NPO安全工学研究所

講演のテーマは「安全な現場へのパスポート~リスクアセスメントの目的と真価~」というものでした。

杉本先生のお話は、その話し方、内容ともに想いが非常にこもったものでした。
長年、機械の安全工学に携わられてきた想いが発露したものに感じられました。

冒頭から繰り返されていたのは、事故をおこす前に「止まる」ことの大切さです。

杉本先生が主張されていたのは、安全についての考え方として、欧州と日本との違いです。

簡単にまとめると、
・日本は、危険回避型(トラブルも事故も、起こさないことが理想)
・欧州は、安全確認型(トラブルを最小にするけれども、トラブルでも事故が起こらないようにする)
といったところでしょうか。

日本は、仕事の中断を避けます。
途中で停止しなくてもよいように、危険を避ける仕組みを作る。

一方、欧州は徹底して安全確認してから、仕事を行う。
止まらないようにするのが第一だけれども、仮に不明、不安な箇所があれば、仕事を停止させるというものです。

事故に至る前に「止める」ことがポイントになります。
しかし頻繁に停止していたら、仕事にならないので、止まらずに済む仕組みを考えます。

求めるものは同じですが、安全に対する思想の違いといえます。

この思想の違いにより、日本の家電製品は海外で認証が得られなかったという事案があるそうです。

参考 「労働安全の国際化に伴う事業者責任の考え方」(杉本旭)

リスクアセスメントは欧州から輸入したものですが、やはり欧州の思想が盛り込まれているように思います。

リスクアセスメントでは、危険を洗い出し評価を行います。その後対策を検討するのですが、対策の検討には順番があります。

1.本質的対策 (工法や材料など危険となる原因そのものをなくせないか)
2.工学的対策 (機械の変更、可動部に近づけないように物理的に危険から遠のかせる)
3.管理的対策 (教育や指導、監視、簡易な立入禁止対策など。)
4.保護具 (保護帽、安全帯など)

リスクアセスメントで効果が発揮されるのは、1と2です。
中災防のリスクアセスメント研修を受けた際でも、3と4はリスク低減にならないと教えていました。(ただし、100%実行が担保される場合は低減になる)

1と2、そして3と4の間には大きな差があります。

容易に取り組めるのは、3と4です。その場でできます。
しかし1と2は予算も時間もかかります。今すぐにはできません。
かかる予算と時間が異なります。

しかしもっと決定的な差があります。
それは、人に頼るか、頼らないかです。

1と2は人に頼りません。3と4は人次第です。
対策として、保護具を使用するとなっても、守る人もいれば、守らな人もいます。これでは効果は望めません。

2の工学的対策として、プレス機にどうあがいても指を入れられないとなると、指を挟むリスクが激減します。使う人の注意しろよと言う必要がなるなります。

リスクの効果的な低減は、「脱・人」とも言えます。

しかし機械も絶対ではありません。故障することもあります。
材料を変更したり、機械を導入することによって、新たに発生するリスクもあります。(これを残留リスクといいいます)

残留リスクに対してのリスクアセスメントも必要ですが、この時、人に頼らなければならないこともあります。
機械の故障時などは、人の出番になります。 

機械の故障時や安全が確認されない場合は、「止めて」→「確認」ということが重要になります。

日本の機械の品質は高いので、故障してストップすることが少ないです。
一方で、ほとんど発生しないトラブル時の対応に弱い面があります。
非定常時の作業で事故が多いのも、これが一因かもしれません。

非定常作業、中でもトラブル対応は慣れていない作業になります。
こういった場合も、一度止まって、打合せと安全確認を十分に行ってから取り掛かるのが大事になります。

事故は起こってしまうと、取り返しがつきません。
安全の原則は、事故が起こる前に「止まる」ことです。そして「止まる」ためのルールを備えておくことです。

なお機械トラブルが発生した時、事業者(会社のトップ)が、停止させずに稼働させた、もしくは判断や指示が遅れた結果、事故になれば、事業者責任になります。
事業者は、現場に事故が起こる前に機械を停止する権限を与えることも重要といえます。

労災事故の責任は、事業者にあります。

この事業者責任についてが、講演のもう一つの主題「無過失責任」です。

無過失責任とは、講演のレジュメから引用する、次の通りです。

無過失責任主義とは、不法行為において損害を生じた場合、加害者がその行為について故意・過失がなくても、損害賠償の責任を負うを言うこと。

事業者は、労働者に仕事を委ねます。仕事を行う以上、100%の安全などありえません。最大限の事故防止に努める責任はありますが、それでも事故が起こった場合は、被災者の救済(補償など)の責務があるということです。

安全管理を行っていても事故を、100%防ぐことはできません。口酸っぱく指導しても、作業者の行動を制御することはできません。

安全管理を徹底することによって、書類送検後、不起訴となるケースもあります。このような場合でも、被災者の救済については免責ではないということです。

事業者責任は、安衛法の根幹です。
事業者の責任は事故を起こさないことですが、そのためには法順守だけでなく、リスクアセスメントでリスク低減、そして事故が起こる前に「止まる」仕組み作りが求められます。

そして不幸にも、事故が起こってしまった場合は、被災者の救済を行うことが重要なのです。

杉本先生が繰り返し仰っていたのは、この2点だったように感じました。
この2点は安全管理の本質といえるものではないでしょうか。

杉本先生の講演は、規定時間では足りないものでした。もう少し聞いていたかった。
機会あれば、ぜひお聞きしたいものです。

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