今日も無事にただいま

「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

AKBコンサートでの事故から見る、安全衛生管理の目指す姿を考えてみる

      2018/04/10

平成28年度は労働災害は前年に比べ、減少傾向でした。
特に死亡者は928人と、統計をとり始めてからは最小となりました。(ピーク時は6500人を超えていました。)
もちろん、数字の大小で論じられる問題ではありません。お一人お一人がかけがえのない人であることには違いありません。

では、昨年度平成29年度はどうだったか。
まだ確定値は出てきていませんが、前年に比べ増加傾向にあるようです。

事故はいつ起こるか分かりません。
「今日は事故にあうぞ」と思って、仕事をしている人はいないでしょう。
多くの人が、無事帰宅することを疑っていないでしょう。

それは建設や製造、運送、ITなど業種を問いません。
これはコンサートなどをされる、アーティストも同じだと思います。
時間と空間を共有したファン共々、気持ちよく終わりたいと思われているのではないでしょうか。

平成31年4月1日にAKB48がさいたまスーパーアリーナでコンサートをされていました。
この時、メンバーの1人がステージから落下し、大怪我をされました。

この事故から、理想とする安全衛生管理のあり方を考えたいと思います。

参考記事:
AKB稲垣香織が後頭部を骨折 ステージから落下 – AKB48 : 日刊スポーツ(平成30年4月2日)

記事によると、概要は次の通りです。

怪我をされた稲垣さんが、バックステージから花道に戻ろうとしていたところ、上(ステージ上部)を向いて歩いていたので、誤ってステージから落下した。急ぎ病院で診察を受けたところ、後頭部に骨折が見られた。意識等ははっきりしており、その他の異常は見られないとのことです。

頭蓋骨の骨折ということなので、 大きな怪我であることは間違いありません。
転落時、ものすごく痛かったと思います。

事故が起こった場所は、中央ステージはバックステージが幅約3メートルの花道で構成されていたようです。
コンサートに行っていた方がアップされていた写真を見て、簡単な見取り図を作ってみたのですが、こんな感じでしょうか?

各花道から、中央ステージに向かうには段差があり、数段の階段があったようです。

この事故では、大きな怪我をされたのですが、実はその前日3月31日に行なわれたHKT48のコンサートでも、ステージからの落下事故があり、メンバーの1人が足の指の骨折をされたのでした。

つまり、2日続けてステージ上のアーティストが事故、しかも結構な大怪我をされているのでした。

なぜ事故はおこったのでしょうか。
原因の一つには、不注意というのがあるでしょう。
しかし、人の不注意に原因を求めると、根本的な原因追求になりません。

人は誰でも24時間集中なんかしていません。集中力が求められる車の運転中も、ぼんやりやうっかり、よそ見もします。
さらに今回の事故では、パフォーマンスに集中されていたでしょうから、疲労も相当にあったと思います。

人の不注意を原因を求めるのは、最後でなければなりません。

私たちの仕事場でも置き換えることができますが、よそ見をしている程度で怪我をするのは、設備や環境に問題があるといえるのではないでしょうか。

かなり極端な意見であると自覚していますが、安全衛生管理の目指す姿はここにあると言えます。

例えば、ここ数年自動車のアクセルとブレーキの踏み間違いによる誤発進事故の報道を多く目にします。
踏み間違いは、人のミスです。これを「注意しましょう」と呼びかけることで、果たして事故は減るでしょうか?

減りません。

人の注意力では、事故抑制にならないので、自動車メーカー各社は、誤発進抑制装置などを搭載した車種を開発しました。
これなら、うっかり踏み間違えても、店舗などに突入する前に、停止する可能性が高くなります。

仕事場に潜む事故に対しても、人ではなく、機械や設備、環境側での対処が効果が高いのです。

効果は高いのですが、残念ながら実行は消極的です。
問題は費用と時間です。
設備改善には多大な費用が掛かってしまい、なかなか手出しが難しいのが実際でしょう。
特に中小企業はその傾向が強いように思います。

結果、人に頼らざるを得ないのです。
例えば、危険箇所で仕事をする時、「ここは注意しろよ」「先に確認してから作業に取り掛れ」などの指示だけする、なんてこともあるのでは。

リスクアセスメントの普及は、この意識改革に一石を投じたものだといえます。

問題の解決策として、仕事のやり方を見直す等の本質的対策、設備改善等の工学的対を行い、様々な改善されているケースも少なくありません。(ただし、対策によって別のリスクが発生したり、残留リスクの存在も忘れてはいけませんけどね)

一方、リスクアセスメントで忘れないで欲しいのは、掲示や教育などの管理的対策や保護具の使用は、早急に対処ができ、手を付けやすいものですが、リスク低下の効果は低いです。結局は注意掲示を見て行動するのも、保護具を着けるのも人です。人の行動には波があるものです。

リスクアセスメントでのリスク低減の検討順番をまとめると、こんな感じですね。

この順番からも分かりますが、人に頼る安全衛生管理は、効果は低いのです。

だから環境や状況、仕事に人を合わせるのではなく、理想は環境や状況、仕事のやり方を変えることが、今後求められる対策と言えます。

リスクアセスメントは、思い切った対策、非現実的な対策を検討しましょう。
実施の検討は、次の話です。計画がなければ、実現までのプランは作れませんからね。

コンサートのステージは、期間限定のものですが、ステージ設計の段階で、アーティストやスタッフ、ファンが怪我をしないという価値観のさらなる強化が必要な時期なのかもしもません。
ただ花道やステージに手すりなんて付けようものなら、興醒め甚だしいでしょうけど。

花道の両端には白線を引かれて、端部明示されていたようです。ただこれは管理的対策です。気づかれなければ、効果は薄いです。

もう一歩踏み込んだ対策として、例えば高さ5~10センチ程度の透明な幅木を取り付けて、足先で端部を感じる感知バーを設置するとか。ただこの場合は、板に足を引っ掛けるといった別のリスクが発生するのですが。

ステージ下にマットを敷くなどの対策もあるでしょう。墜落した際には、怪我の軽減が期待できます。しかしこれ単独ではなく、墜落防止対策も欲しいところです。

アーティストは夢を与えます。感動を生み出します。
一方では、働く人でもあります。
働く人の安全と健康は守られなければなりません。
ステージでアーティストが怪我等すると、ファンは心配をお土産にしなければなりません。

最後に事例研究や安全教育で、取り上げる際のポイントです。

AKBに関連した事故ということで、安全衛生教育の資料としては興味を引きやすい事例だと思います。
事例で取り上げる際には、結論に「注意する」などとまとめないでください。
自分たちの設備や環境の問題点の洗い出しにすることが、教育効果としては有用になります。

iQiPlus

 - ○コラム, 安全衛生教育