今日も無事にただいま

「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

安全帯を正しく使おう(胴ベルトタイプ編)

   

平成28年末くらいでしょうか。安全帯が今後フルハーネス型が義務化になるとの話題が出てきて、関係者はザワッとしました。
この話を研修等で話すと、会場全体に驚きと、軽い怨嗟の声が満ちたものです。

今現在、明確に通達等は出てきておりませんが、フルハーネス安全帯の義務化についてのスケジュール等は、少しずつ漏れ聞こえています。

大体2022年を目処に、5メートル以上の高所で使用する安全帯は、フルハーネス型に切り替わっていくようです。では5メートル未満の場合は、どうするのか等の議論もあるのですが、路線自体は確定と考えて差し支えないと思います。

この流れを受けて、大手の建設会社やハウスメーカーの中には、すでにフルハーネス型安全帯の使用をルールにしているところもあるようですね。

しかし、鳶等を除き、胴ベルト型安全帯を使用している人が多数を占めていることは間違いないでしょう。そして法令改正があったからといって、一朝一夕に切り替わるものではありません。
またフルハーネス型安全帯が義務化になっても、胴ベルト型の需要がゼロにならないでしょう。

胴ベルト型安全帯は、しばらくは墜落災害防止用の保護具であり、墜落災害の最後の命綱であるとこには違いありません。

しかし、胴ベルト型安全帯ですが、安全パトロール等で、適切でない使われ方をしているのも見かけます。
適切に使用しないと、いざという時に役に立ちません。それではただの重い腰についたアクセサリーです。

今回の教育は、まだまだ現役、胴ベルト型安全帯の使い方を再確認使用です。

今回の教育の目的

自分の安全帯を点検し、正しい使い方を理解する。

安全帯を毎日着用していても、点検は出来ているでしょうか?もし不具合があれば、役に立ちません。
着用方法、使用方法等も再確認し、正しく使用します。

教育で使用するもの 1.記入用演習シート(今回の配布資料です)
2.安全帯(普段使用しているもの)
今回の教育の
大事なポイント

(この教育の目標)
1.安全帯の作業前点検ポイントを確認する。
2.安全帯を着用し、体にフィットさせる。
3.正しい使い方、注意点を理解する。
オープニング
開会の挨拶を行った後、今回のポイント、教育の流れを説明。
1.安全帯の今後
 フルハーネス型安全帯の義務化の流れについて、少し話すとよいと思います。
 
今すぐにフルハーネス型に切り替える必要はないけれども、新規格品が発売されてくるであろう来年以降で、買い換える場合は検討の余地に加えると良い等は話せますね。
 

1つ強調するポイントがあります。
それは、安全帯の前に、墜落しない設備が大事ということです。
安全帯はあくまでも、墜落後に地面への激突から守ってくれるものでしかありません。安全帯以前に、手すりや開口部の多い等の設備を備え、維持することが大事だということは伝えます。

墜落防止設備が最優先。安全帯等の保護具は補完でしかないのです。

2.安全帯はなぜ必要か 資料P2

資料P2を参考に、安全帯を使用しなければならない作業を確認します。

基本的には、作業床を必要とする高さ2メートル以上の場所で使用が求められます。(安衛則第518条第2項)
とはいえ、2メートル以上であれば、どんな場所でも使用なければならない訳ではありません。
状況は限定的です。

例えば、手すりや中さん等を備えた足場上を移動する、開口部はあるけれどもネット等の墜落防止策が施されている場所にいる等は必要ありません。
墜落防止の設備が十分に備わっている場所では、不要なのです。

必要な状況は、手すりがない場所や屋根の上といった場所等になります。
代表的な場所を資料で書いているので、1つずつ確認しましょう。(読み上げます!)

確認した上で、自分たちの現場ではどこになるかを話し合います。

(演習)
自分たちの現場で、安全帯を使用しなければならない場所や作業は何か、話し合って記入しましょう。
(2~3分)

必要に応じて、作業場全体の平面図や見取り図等があると、考えやすいと思います。

地上のみで作業するので、安全帯を使わない人たちもいると思います。その人達には、自分たち以外の作業場等、現場全体を見渡したら、どこで必要になるかを話し合ってもらいます。

足場上や屋上、屋根等が主となるかもしれませんが、屋内でも開口部等の墜落危険箇所はどこにあるかを検討しましょう。

話し合い後は、発表してもらったり、図面に描き込んでもらうのもいいですね。
描き込んでもらった図面は、今後の安全指導や工程打合せで使用できます。

3.安全帯を点検しよう 資料P3

(演習)
資料P3を参考に、持参してもらった安全帯の点検を行いましょう。さらにグルーブ内で、お互いに点検し合いましょう。
(2~3分)

 毎日使う安全帯も、意外とじっくり点検してなかったりします。中には、作業前点検を習慣づけている人もいるでしょうけども。
じっくり点検すると、劣化やほころびも見えてくるでしょう。

点検は、ベルト、バックルやベルトの留金具、ロープ(ストランド)、D環やリール等全部を確認します。
長期間使用していると、ロープやストランドが柔軟性を失っていることもありますが、これは注意が必要!

劣化が進んでいたり、柔軟性を失うと、墜落時の衝撃を吸収してくれません。つまり命綱の役割りを果たさないこともあるのです。

また、見た目で異常がなくとも、長年使用していると劣化しています。そのため何年使用しているかも確認しましょう。
安全帯のバックル等に製造年月日の刻印があるので、参考にします。

大体メーカー推奨では、約3年を目処に交換するのがよいとされています。実際はもっと長期間使用されているのが、ほとんどでしょうけど。
長期間使用していると、墜落時のリスクが高まることは話してもよいと思います。

ここで最も大きな問題にぶつかります。
それは、安全帯が劣化していたとして、誰が買い換えるのかです。

個人に「買い替えて」と指示しても、無駄でしょう。わざわざお金を払って買い換える人は、ほとんどいません。
法的に考えると、「事業主」の義務になります。つまり会社等ですね。会社に負担を求めたいのですが、対応してくれるかは微妙です。

理想は、元請け等が支給でしょう。私がパトロールに行った現場では、元請けがフルハーネス型安全帯を支給していた現場もありました。しかしそこまで負担する元請けは、珍しいです。

安全帯等の保護具の問題は、誰が負担するのかです。
フルハーネス型安全帯が義務化になっても、間違いなくこの問題があるでしょう。

今回の教育内では、現在の状態確認、交換の必要性の認知度アップを目的に留めています。

その後は、残念ながら各会社、個人の判断になります。
買い換えない限り、現場に入場してはならないと強権を発動するものよいでしょうが、反発を招くこともあるので注意が必要です。

いずれにせよ、劣化しているものは、早めに交換しないと、いざという時危ないよとは伝えることは必要です。

4.安全帯を正しく装着しよう 資料P4

(演習)
各人、持参してもらった安全帯を普段通りに着用してもらいましょう。その上で、資料P4のチェックポイントを確認し、各所締付け等を行います。グルーブ内でお互いに確認し合いましょう。
(4分)

 普段使っている状態は、あちこち緩んでいることも多いです。安全帯に腰道具を着けている場合は、なお一層下にずり落ちています。

墜落時、安全帯のベルトには最大で約6.0KN(約600kg)前後の荷重がかかるそうです。
( こんな資料がありました。何で使用された資料なかは分からないのですが。
 厚生労働省「胴ベルトの墜落距離及び衝撃荷重等について」(井上委員提出資料2)

幅が約5cmのベルト1箇所に、相当な荷重がかかるわけです。
安全帯のベルトは構造規格で8.0KN(約800kg)の荷重まで耐えられることになっていますが、それほどまでの力に体が耐えられません。

そのため装着位置が悪いと、墜落時の衝撃で体を痛めてしまうのです。

理想の位置は、腰骨の少し上くらいです。
腰を触ってみて、骨が出っ張ったところがありますね。この位置にベルトが来るようにしましょう。

腰骨より上、腹部だと内蔵が破裂したりします。
逆に、腰骨よりも下だと、骨盤を骨折したり、場合によっては体がひっくり返り、安全帯からすっぽ抜けることもあります。

位置をキープするには、ベルトが適度に締付け調整する必要があります。
着脱を繰り返すから、ベルトを緩めにする等は、やめて下さい。

もし過度に緩かったらどうなるか。
墜落時、ベルトが回り、D環(リール)がヘソの位置まで移動すると、衝撃は背骨にかかります。
約600kgの衝撃が背骨にかかると、骨折する可能性が高くなり、同時に脊髄を痛める可能性もあります。
脊髄を痛めると、命は助かっても、重い後遺症を残すかもしれません。

そのような自体を防ぐためにも、適切な締付けは大事です。
ずり落ちない、ぐるっと回らない程度には締付けましょう。

またワンタッチバックルではなく、着脱の度にベルトを通すタイプは、必ずベルトがバックルの2箇所通して、留めるようにして下さい。
1箇所しか通していないと、墜落の衝撃で抜けますので注意です。どんなに着脱の頻度が多くとも、この点は習慣付けましょう。

お互いに、着用の位置や締付け状態を確認し合うのがよいですね。
普段はなかなかチェックし合う機会は少ないと思います。

5.安全帯使用時の注意点を確認 資料P5

使い方の確認です。

パトロール等で見ていると、多くの人はフックを腰より高いところに取付けているようです。
必ず腰(ベルト・D環)より高い所、作業に支障のない程度に高い場所に取付けましょう。

ただし取り付ける場所は、堅固な場所です。
足場であれば手すり等です。
自分の体重+落下時の荷重に耐える強度がある場所でないと、一緒に崩れてしまいますね。

以前パトロールで、型枠大工さんがフックをD16の鉄筋に掛けているのを見ました。これでは、強度不足ですね。

取付ける位置が大事なのです。

また仮に墜落した時、ロープが作業床や開口部の端部に接触するなら、フックの取付け位置を考えたほうがよいです。
墜落時、ピーンと張ったロープが角に接触すると、切れます。例え新品のローブでも切れます。
ナイフエッジ効果というらしいのですが、こんな危険性もあることは知っておくといいですね。

ロープ接触位置に養生するという手もありますが、どこに当たるか分からないので、フックの取り付け位置を検討しましょう。

さて、もう1つ大事なポイントを話し合いましょう。

(演習)
仮に墜落し、安全帯で吊られた場合の対処方法について、グルーブ内で話し合いましょう。
どのように救助するのがよいでしょうか?
(5分)

安全帯は使用することが話題になりますが、落下時の対処について考える機会は少ないと思います。
しかし、これは結構大事です。

胴ベルト型安全帯で吊られた経験のある方は分かると思いますが、かなり辛いです。
姿勢も辛く、呼吸もしづらいです。
私も体験学習で吊られたことがありますが、30秒耐えられません。

実際、胴ベルト型安全帯で吊られた状態で、救助が遅れてしまい、亡くなったという事故もあったのです。

フルハーネス型安全帯と大きく異なる点は、落下後の姿勢であると言えます。

これは各業者が方針を決めるというより、元請け等が意見を聞く演習でしょう。
対処方法として、要望があれば取り入れて下さい。

対処方法としては、墜落者発見時の連絡体制、救助体制等の確認になります。

吊られている人を引き上げるのは1人では無理です。4人くらい必要という見解もあります。

参考書籍
(「

」菊一功著 労働新聞社)

そのため応援を呼ぶ体制が重要です。

墜落者の周辺に人がいれば発見も早くなりますが、1人作業の現場では、いち早く発見するためにどうするかは検討が必要ですね。

元請け管理者としては、ある程度意見をまとめ、指針を示してあげましょう。
これが管理者として行うことのコミットメントになります。

なお、一度衝撃を受けた安全帯は、交換することも伝えて下さい。

6.クロージング

資料P2で挙げた、安全帯を使用する場所や作業では、必ず安全帯を使用することを確認しましょう。
これがコミットメントになります。

さらに装着の時のポイントも確認しましょう。

劣化した安全帯の買い替えは、できたら早急に実現したいですね。

最後に大事なポイントを繰り返します。

1.安全帯の作業前点検ポイントを確認する。
2.安全帯を着用し、体にフィットさせる。
3.正しい使い方、注意点を理解する。

以上で30分くらいになるのではないでしょうか。

30分を1時間にするために

フルハーネス型安全帯の必要性の話を追加するとよいでしょう。
(フルハーネス型安全帯については、別途まとめます。)

また3の点検と4の装着方法等は一人ひとり確認すると10~20分くらいになると思います。

5の墜落時の救助体制については、発表をしてもらいながら意見をまとめ、方針を固めると良いですね。10分くらいかかるのではないでしょうか。

実際やってみた感想

やはり点検で、不具合が見つかりました。
中には、ロープが固まって伸びないものもありました。

費用負担の問題は大きいです。事業者責任だから、会社もしくは元請けが準備すべきだという意見は至極最もですが、その主張が実行されるかは、別のお話です。

フルハーネス型安全帯への移行では、一気に買い替えが進まざるを得ないでしょうが、問題はその後ですね。
やってて矛盾と課題を考えさせられました。

最後に今回使用する資料とレシピのPDFも公開します。
自由にダウンロードしていただいても構いません。
 
 
ただ、この教育を実施される場合は、コメントに報告やご意見をいただけると、今後の励みなりますので、ぜひお願いします。

今回の教育に関連する過去の記事
 
 
 
 
 
 
 
 
その他、災害事例も多数書いておりますので、参考にして下さい。
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 - 30分間の安全衛生教育レシピ