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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

安全帯が「墜落制止用器具」となる法改正

   

一昨年の年末くらいから、にわかにフルハーネス型安全帯が義務化になるという話が浮上しました。(正確には、厚生労働省内で検討会議が始まりました。)
 
現在日本国内では、一部の作業を除き、多くが胴ベルト型を使用しているのが実情です。
これをフルハーネス型に切り替えるのですから、かなりのインパクトがあるニュースでした。
 
「今後はフルハーネスが義務化になりますよ」と、研修などで言うと、会場がザワつき、「まじかよ~」という声もちらほらと聞こえてきました。このような反応を見るのは、小気味良かったりしました。
 
ところが義務化になるという話は聞こえてくるものの、いつから適用なのか、猶予期間はあるのか等の情報は、時折漏れ聞こえるばかりでした。私も質もされても、明確な答えを返すことができず困っておりました。
 
しかし、2018年5月23日の厚生労働省の報道発表で、新たな情報が公開されました。

 
今回は、この発表内容を教育材料にしたいと思います。
 
ポイントのまとめ
 
今回の発表では、いくつかのことが明確になりました。
私なりにポイントとなるものを、7つピックアップしました。
 
なぜフルハーネス型が義務化になるのかについては、以前まとめましたので、そちらも参考にしてください。
 
 
 
その他の項目や詳細については、上記ページの「別添3」の資料を見てください。
 
 
では、ポイントを1つずつ見ていきましょう。
 
1. 安全帯を「墜落制止用器具」と名称を改める。
長年使われてきた名称の変更です。今後は安全帯が墜落制止用器具と呼ばれるようになります。
作業現場では安全帯と呼ばれ続ける可能性はありますが、少なくとも法律上では、今後安全帯という言葉は消えます。
 
なぜ改めるのか、理由としてはこんなところです。
 
1.フルハーネスは帯ではないから(海外ではセーフティ・ベルトという言葉は使われなくなった)
2.従来安全帯が果たしていた機能から、「地面等に激突する前に 墜落をおしとどめる」意味合いを明確にする
 
従来の安全帯は3つの機能が与えられていました。
 
  1. フォール・アレスト
  2. ワーク・ポジショニング
  3. レストレイント

いわゆる安全帯のイメージするものは、1のフォール・アレスト機能でしょう。
これは、もし足場などから墜落した時の命綱的な役割を果たすものです。
 
2のワーク・ポジショニングは、高所での作業姿勢を保つものです。具体的にイメージしやすいのは、電柱作業時に、電柱にぐるっとロープを回し、作業者に固定するものです。いわゆるU字型安全帯というものですね。
 
3のレストレイントは「その他の命綱」などが含まれます。墜落危険箇所に近づかせないことが目的です。そもそも落ちるような場所まで、接近するのを防ぐと言い換えてもよいでしょう。
 
建物の端部付近(手すり等もない)で作業する時、水平ロープを体に取付け、そもそも建物の端部まで行けないようにするといった使われ方をします。
 
2. 墜落制止用器具は、「胴ベルト型(一本つり)」、「 ハーネス型(一本つり)」が含まれる。
 ( 「 胴 ベルト型(U字つり)」 は、省かれる)
墜落制止用器具では、2が除外されます。
そのため機能としては、フォール・アレストとレストレイントが主となります。
 
ワーク・ポジショニングの器具は別途で用意されることになるのでしょう。
電柱等で作業される方は、使い分ける等がでてくるかもしれません。
 
3. 墜落制止用器具としての新規格のフルハーネス型等が今後製造、販売される。
 新規格品を使うことが義務。
フルハーネス型が義務になるのですが、今回の法改正では、従来の規格から規格が変わります。
規格の変更については、各メーカーが対応されることになります。
 
ユーザーとして大事なポイントは、今後は新規格品を使わなければならないということです。
 
今現在(2018年6月)では、まだ新規格対応は発売されていません。
新規格対応のフルハーネス型が発売されるのは、おそらく2019年になってからでしょう。
 
法改正後は、新規格を購入し、使用することが求められます。もちろん数年の猶予はありますが、差し迫った問題として、今使っている安全帯は、使えなくなることはしっかり理解してもらいましょう。
 
ただ、誰が購入費用を負担するのかは、課題ではありますね。
事業者責任なので、会社が負担が原則ではあるのですが。個人負担に任せると、購入されないでしょうね。
 
4. 原則、フルハーネス型安全帯が義務となる。ただし墜落時にフルハーネス型の着用者が
 地面に到達するおそれのある場合は、胴ベルト型の使用も認める。
5.胴ベルト型が使用できる上限は、6.75m以下。それ以上は、フルハーネス型が義務。
  ただし建設業は5m以下、電柱作業は2m以下と、各種ガイドラインが設定された場合は、
  それに従う。
フルハーネスのメリットとして、墜落時に体にかかる負担が小さいこと、そして吊られた姿勢が楽というのがあります。
 
一方、デメリッもあります。
デメリットの最たるものとしては、一定以上の高さからでないと、吊られる前に、足が地面に着くというのがあります。
 
安全帯が必要とされる高所は2メートル以上です。フルハーネスは2メートルの高さからでは、足が着いてしまいます。
 
フルハーネスで足が着かない高さは、個人差や器具の差はありますが、4.5メートル~5.5メートルくらいです。
つまり約6メートル以下の高さからの墜落時は、場合によっては足が地面に激突することもあります。
 
安全帯を必要とする高さと矛盾します。
そのため、一定の高さまでは、胴ベルトの使用も認めましょうとの意見が出されています。
 
一定の高さとは、6.75m以下です。非常に中途半端な数字ですね。
これが胴ベルトが使用できる上限です。これ以上の高さではフルハーネスが義務です。
 
しかし業種によっては、もっと低い高さを上限としたいとの意見かあるようです。
例えば、建設業は5メートル以下、電柱等作業では2メートル以下との意見が出ています。これらについては別途ガイドラインで定められるので、そちらに従いましょう。
 
足が着いてしまう高さでは、胴ベルトを使うとなっていますが、フルハーネス型と胴ベルト型を使い分ける人は少ないでしょう。そのためフルハーネスの胴ベルト部にD環を着けて、ランヤードを付け替えるなどが現実的な運用になるのではと思います。
6.この法改正適用は平成31(2019)年2月1日から適用。
  2022年1月1日より、旧規格品の使用は禁止。
この項目が、一番関心のたかいことではないでしょうか。
つまり、いつから義務化になるのという話です。
 
法改正(政令)の適用は、 平成31(2019)年2月1日です。
来年の2月からは、原則として新規格の墜落制止用器具の使用が義務化です。
 
ただ、急に安全帯を変えろと言っても難しいですよね。そのため一定の猶予期間が設けられています。
 
こんなスケジュールになっています。
◯新規格に適合する墜落制止用器具の製造、譲渡、貸与又は使用:平成31年2月1日以降可能。 
(注)新規格及び旧規格の両方に適合する製品は、平成31年2月1日前から製造、譲渡、貸与又は使用が可能である。 
 
◯新規格に適合しない安全帯の製造:平成31年8月1日まで可能。 
 
◯ 新規格に適合しない安全帯の譲渡、貸与又は使用:平成34年1月1日まで可能。
 
義務になるのは、平成31(2019)年2月1日ですが、最終的には改元後の2022年1月1日には全面切り替えです。
2022年以降に、今使っている安全帯を使用すると、容赦なく違反で取締となります。
 
まだ4年間の猶予がありますが、あっという間に期限はきます。
早めの対応が良いですね。
7.墜落制止用器具使用が特別教育の対象となる。教育時間は6時間。
  ロープ高所作業特別教育修了者は免除。足場組立等特別教育は一部免除等が検討。
これも安全担当者や作業者にとっても重要なポイントですね。
私にとっても大事なことです。
 
今まで安全帯の着用、使用に特別教育等はありませんでした。
しかし今後、墜落制止用器具と改めるに当たり、特別教育を受けることが必要になります。
 
カリキュラムが公開されていますが、学科4.5時間、実技1.5時間の計6時間です。
 
一応免除規定もあります。

ロープ高所作業の特別教育修了者は、十分に教育を受け、知識があると見なされるため受講は不要です。

足場組立・解体等の特別教育修了者は、一部免除が検討されています。項目や時間は未確定です。
◯平成31年2月1日より施行する。 
◯安衛則の経過措置により、旧規格のみに適合するハーネス型安全帯を用いて特別教育の対象作業を実施する場合であっても、 平成31年2月1日以降は、特別教育を実施が義務付けられる。 
◯安衛則第37条の規定により、特別教育の科目の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる労働者については、当該科目の教育を省略することができる。具体的には、施行日に現にハーネス型安全帯を使用している者、足 場の組み立て等作業に係る特別教育やロープ高所作業に係る特別教育を受けた労働者等については、科目の全部又は一部 の省略が可能となる。これらの場合に省略可能な科目については、通達で示す予定である。
 
たかが安全帯ごときで特別教育とは大袈裟な思われるかもしれません。
私も、安全等に携わっていなければ、文句を言っていたと思います。
 
しかしこれにも理由があります。
理由の一番としては、依然として墜落・転落事故による死亡災害が多いのです。
死亡者の内約25%が墜落・転落です。つまり4人に1人は墜落・転落で命を落としているのです。
 
足場の法改正等で、墜落防止用設備の徹底を図っているものの、十分な効果を果たしているわけではありません。
安全帯の使用状況を見ると、やはり徹底されているとは言い難いのが実情でしょう。
 
住宅の建築現場などを見ると、足場も中途半端、ノーヘル作業、安全帯を持っていない等も少なからず見かけます。
私からすると、まだまだ危険極まりない光景を目にするとも少なくありません。
 
法律を厳しくしたら、良くなるかと言うと、難しいでしょう。
しかし、多くの方は危険だと思わずに、不安全なことを行っているのが多いです。
危険を知らないのです。もしくは他人事なのです。
 
知らない人に対しては、まずは教育し、今の仕事のやり方を振り返ってもらう機会が必要です。
墜落制止用器具の特別教育は、その機会になるはずです。
 
特別教育が設けられるに至った、もう一つの理由が、墜落危険に関する特別教育が少ないというのがあります。

死亡者が多いのに、墜落の危険を学ぶ機会がないのです。特別教育では、せいぜい足場とロープ高所作業、あとは高所作業車です。

足場も安全な組立開催作業についてが中心なので、墜落防止の内容は少ないです。
ロープ高所作業は墜落の危険を扱いますが、専門性が高いので受ける人が少ないです。高所作業車も同様です。
 
私の推測になるのですが、厚生労働省はこのような意図は、今回の特別教育を、墜落事故を減らすために幅広い人に向けた教育と位置づけたのではないでしょうか。
(第13次防でも墜落事故の減少は重要課題ですからね。)
 
墜落制止用器具の使用は、業種を問いません。建設業や林業が多いでしょうが、製造業や陸運業も必要です。
単にフルハーネスの使い方を知るだけであれば、取説を読めば済む話です。
多くの人に危機感と、墜落事故で命を落としたり、大怪我をしないための方法を理解する機会になるはずです。
 
ならば、推測ではあるものの、私が行う特別教育では、その意図を汲み、強いメッセージを込めて、受講生の前に立ちます。
 
私は、どんな教育でも必ずメッセージを込めて伝えています。
共通しているのは、「私の教育を受けた人は全員、絶対に死なせない」です。
 
今後、墜落制止用器具の特別教育をものすごくやる機会が増えると思います。
受講される人は「絶対に墜落で死なせないこと」と、コミットして教育にあたっていきます。
もし私の教育を受ける機会があれば、思いの暑苦しさを覚悟しといてくださいね。
 
とはいうものの、までこの特別教育は実施できません。
テキスト等もありませんので、内容が未定だからです。
 
私が所属する安全教育センターでも、早くも教育のご依頼を頂いております。
現在の予定では、11月くらいにはテキストも発売されて、スタートできるかなと。
 
法改正の適用になると、依頼が増えると思われますので、ご興味があれば、安全教育センターにご依頼ください。
 
フルハーネス型は義務化へ。これは確定です。
事業者(経営者・安全衛生担当)としては、今後のスケジュールを理解し、作業者や協力会社にも理解させ、準備を進めていくことが今後の課題になりますね。
 
最後に今回使用した資料を公開します。
教育などに役立ててください。
 
 
もしダウンロードして使用する時にコメントをいただけると、今後の励みになります。
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