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「『いってきます』といった人は『ただいま』と言う義務がある。労働安全コンサルタント角田淳による、安全衛生で使えるアイデアや教育ツールのご紹介

1つの事故が招く損失は小さくない

      2016/10/16

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先日ブログに寄せられたコメントを見て、少し考えることがありました。

建設業の事故に見える2つの世代傾向

要約するとこんな内容です。

先日、作業者が現場に入り、足場につまづき転倒する事故がありました。
問題は、事故があった日が、稼働日でなかったこと。しかも、現場入りに当たっての注意事項も受けないということなので、新規入場者教育を受ける前に、個人(?)の判断で現場入りしたようです。

事故に関する検討会を行うにしても、作業者や直接現場監督をしていない他部署の人たちを交え、有効な再発防止対策を作れるのかいうものでした。

ここには、現場を預かる現場代理人や統括安全衛生責任者と、作業者などとの意識の差が現れているように感じます。

安全パトロールで様々な現場に伺うのですが工事現場で最も、安全に対して気を使っているのは、元請けの現場責任者のように思います。
もちろん責任者以外にもしっかり安全意識を持っている人もたくさんいます。

ただ、多くの人が安全意識を持って作業している現場は、会社と現場責任者の方が事故防止に積極的に努めています。
どんなに会社として安全作業第一との方針を打ち出していても、現場責任者がないがしろにしていたら、意味はないのです。

しかし、現場責任者だけが一生懸命でもだめです。
実際の安全活動は、作業者一人一人が行うことになるからです。

ただ現場責任者が、強く安全のことを考えている現場は、協力会社もしっかり安全対策をしているようです。

安全活動、安全意識というものは、基本的にトップダウンです。
いや、むしろ元請けなどがリーダーシップをとって、牽引するものと言ってもいいかもしれません。

例えるならば、広げたハンカチの中心を摘んで、持ち上げるような構造です。
摘ままれている1点が元請けの現場責任者です。高く持ち上げれば持ち上げるほど、裾野まで引っ張り上げられます。

つまり、現場責任者がしっかりとした安全意識を持ち、強いリーダーシップを発揮している現場では、作業者までその意識が浸透するのです。

まだ多数派とは言い難いですし、大手の建設会社が中心ではありますが、このように安全対策がしっかりされている現場も増えてきています。
一方では、まだまだ安全そっちのけの現場も多いです。

先日、車で走っていると、こんな現場を見ました。
それはビルの外壁工事をしているようで、足場が組まれていたのですが、ヘルメットもかぶらず作業をしていました。さらには電線に接触したりもしていたのでした。接触していた電線は、電話線のため弱電ではありますが、もし100Vの低圧電気が流れていたら、感電でアウトだったはずです。

作業者本人は気にしていないのかもしれませんが、ヒヤヒヤします。

誰も指摘や指導する人がいない現場では、こんなのは日常茶飯事です。
今まで事故が起こっていなくとも、それは結果的に起こらなかっただけで、いつ大きな事故が起こってもおかしくありません。

では、なぜ端から見ると危険な作業方法を行うのでしょうか。

理由の1つは安全活動は、成果が見えにくいというのがあります。
やってもやらなくても、結果的に無事故ということは、多々あります。むしろほとんど現場作業は、大きな事故なく終わります。
予算をかける、手間をかける。こういったことに対し、費用対効果が見えにくいのが安全活動です。

そんな1銭の得にもならないことに、金を出すなんて。
うちにはそんな余裕はない。

潤沢な予算がないと、材料などでいっぱいになり、安全にまで回せません。
また作業者からすると、面倒だからというのが本音かもしれません。

しかし、費用対効果が見えにくい安全活動に大手の会社は、投資するのか。
それは、事故による損失の大きさと比べると、安全に対する投資は十分にペイすると判断してることでしょう。

事故が起こったときの、損失はとんでもなく大きいのです。
安全の大切さを理解してもらうためには、この方便を使ってもいいのではないでしょうか。

index_arrow 事故の損失はかなり大きい

実際のところ、大きな事故を起こすと、多大な損失が発生します。

まず、警察や労基の捜査により、送検され、司法処分されます。
当然ですが、仕事はストップします。

そして治療費や死亡手当などが発生します。民事裁判となれば、数千万から数億の和解金を必要とします。

忘れてならないのが、住宅などで事故を起こすと、瑕疵責任が発生します。
家は安い買い物ではありません。一生に一度のマイホーム。もしその作業中に人が死んだとしたら、どう思うでしょうか。そんな家に住みたいと思うでしょうか?
瑕疵のついた住宅については、請負った会社が負担することになるでしょう。

この他、行政処分があります。
公共工事であれば、数ヶ月から1年程度の指名停止処分になります。指名停止期間は、少なくとも公共工事を直接受注することはできません。また下請けで入るにしても、敬遠されることも多くなります。
指名停止などの処分があると、仕事がなくなる、または激減してしまいます。

さらに、取引先からの取引停止や銀行からの融資が受けられないなどの問題も発生します。

当然ですが、事故を起こした本人も多大な被害を受けますし、その家族も巻き込みます。

1つの事故による影響は、想像以上に大きいのがわかります。
体力のない中小では、事故1つで倒産することもあります。

広島で起こった橋梁落下事故では、大手の建設会社が倒産しました。

ずさん工事で橋梁落下事故を起こしたサクラダがついに破産 – ビジネスジャーナル/Business Journal

事故による倒産の危機を描いたものとしては、井戸田潤さんの「空飛ぶタイヤ」があります。



これは三菱自動車のリコール隠しがテーマですが、初っ端は事故による会社の危機の様子を描いています。
Amazonのプライムビデオでドラマを見ることもできますが、こちらもおすすめです。

index_arrow 事故の影響を共有する

安全管理の大切さを他部署の人などに実感してもらうには、発生する損害をシミュレートし、実際の金額として見せればいいと思います。
数字で見ると、少しは冷や汗の1つも流れるのではないでしょうか。

神田昌典さんの「非常識な成功法則」の中で、うろ覚えではありますが、こんな一節があったと記憶しています。

「人の行動欲求の原理は、苦痛からの逃避か、快楽を求めるか」

おそらく、文言は違うと思いますが、ニュアンスはこんなだったと思います。

損害をシミュレートするのは、苦痛を実感し、それを避けるための行動です。
安全活動は、予測される大きな苦痛を回避するためのものともいえます。

損失の計算については、こんな本を参考にしてください。

「安全は利益を生む-労働災害損失コストの算定法-(算定ソフトCD-ROM付き)」



また、「労働災害が発生したときの企業の対応・手続きハンドブック」も参考になります。



もし再発防止の検討を行うのであれば、会社全体で危機感を共有するために、このような手に出るのもよいのではないかと思います。

しかしこれだけでは、作業者の危機意識を高めることは出来ません。

それについては、別の手が必要になります。
一応、腹案も考えているのですが、これはまた別の機会に書いてみようかと思います。

事故を防止するのは、元請けの現場責任者だけではできません。
会社、協力会社、一人一人作業者の協力の下で行っていきます。

事故の不利益が、我が身にも不利益をもたらすことを理解させる。
対策を検討する前に、当事者意識をセットアップすることも大事ではないでしょうか。

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